読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

レッシング『ラオコオン ―絵画と文学との限界について―』(原著 1766、斎藤栄治訳 岩波文庫 1970)

どちらかといえば文章読本的な比較芸術論。空間展開する絵画彫刻作品と時間展開する文芸作品の表現の志向性の違いを説いている。

レッシング自身が劇作家であり詩人でもあるため、ギリシアローマの古典作品を取り上げて技巧を評価しているところがもっとも読みごたえがあり、取り上げられた作品を読んだことがあるとすれば鮮やかに想起させてくれるので、文芸愛好家にとってなかなか楽しい著作。

ホメロスウェルギリウスオウィディウス、ダンテ、シェイクスピア、ミルトンなどの詩が引用され、詩文の技巧について語られているところが読みどころ。たくさん原注が付いているが、詩の引用があるところは本文と思って立ち止まって読んでおいたほうが良い。

ウェルギリウスの『アエネーイス』による描写が先か、彫刻『ラオコーン』の制作が先かといったところから議論を起こして、文学と造形芸術の差を説くように持っていく構成の妙もあり、美学領域の古典として読まれ続けているようだ。文学における着衣のラオコーンと彫刻における裸体のラオコーンを比べ、素材と表現との兼ね合いと、異なる表現領域間にあらわれる差異の必然性を説いているところなどは、今もって新鮮であり、現代においても美学の分野でたびたび参照されている理由を実際に知ることができる。

劇作家・詩人としてのレッシングに対しての関心にも火をつける刺激的な批評作品。

 

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【付箋箇所】
23, 38, 67, 195, 227, 295

ゴットホルト・エフライム・レッシング
1729 - 1781

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斎藤栄
1910 - 1979

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