読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房 2020)

近未来における歴史的変換についての予測が多く当たることで有名なフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド。日本でもっとも注目される学者のひとりであるそのエマニュエル・トッドが,コロナ禍真っ只中の日本で発信した思考指南書。刊行時69歳、自らの45年にわたる研究で練り上げてきた思考の手順と基本方針を語り下ろしのかたちで提示してくれている。日本オリジナル。

多くのデータと文献や記事の購読からアイディアを生み出し発表していくということは多くの学者に共通するところであろうが、トッド氏がユニークなのは、経済データやイデオロギーから物事を考察するのではなく家族構造と人口動態のデータから世界の動向を見ているところと、データが示す現実を否定せずに解釈しているところにあるように見えた。英米を中心としたアングロサクソン型の核家族社会とドイツ日本韓国などの直系家族社会の思考や行動における差異が国のあり方にまで及んでいるところなど特に説得力を感じた。
データは遅れて整理されてくるために、大きな流れが見えた時点ではその流れを変えることが難しい。そして、人の生死や家族構造や進学率や宗教比率など比較的変化しずらく誤謬が混じりにくいデータを基にした情勢判断が大きな間違いになる可能性はかなり低いものとなるであろう。このためにトッド氏の近未来予測の的中率が高いものとなっていることが納得できる。だだ的中率の高い未来予測は、予測された時点で抵抗するには難しい状況となっているので、そこから新たに希望を見出そうとすることはむずかしいのではないかという思いが強く湧き出てくる。ただ、即効性のある希望を見つけようとするよりも、事実を受け止め最悪を回避しつつよりよき方向性を探るように勧めているのが本書が書かれた理由であるだろうことは全編を通して伝わってくる。

問題のありかを特定し、次の選択肢を練り上げて提示していくこと。

日本に対しては少子高齢化と移民受入れ問題が喫緊のこととして提示されているが、生み育てることと、異質な文化を背負った人を日常的に受け入れること、ともに簡単に態度変更できるものでないだろうところはむずかしいなと感じた。

www.chikumashobo.co.jp

【目次】
序章 思考の出発点
1 入力―脳をデータバンク化せよ
2 対象―社会とは人間である
3 創造―着想は事実から生まれる
4 視点―ルーティンの外に出る
5 分析―現実をどう切り取るか
6 出力―書くことと話すこと
7 倫理―批判にどう対峙するか
8 未来―予測とは芸術的な行為である

【付箋箇所】
18, 43, 47, 66, 71, 80, 91, 93, 98, 103, 104, 106, 123, 133, 134, 201, 202, 206, 216, 222

エマニュエル・トッド
1951 - 

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大野舞
1983 -