2022年は「荒地」刊行百周年。ほかにはジョイス『ユリシーズ』百周年、マルセル・プルースト没後百年、日本では森鴎外没後百年(大正11年没)などの年にあたる。
この100年間の社会変動は大変なものだが、文芸の世界ではどれほどの展開があっただろうか?
蓄音機で音楽を聴く世界からデジタルコンテンツとして楽曲をスマホにダウンロードして聴くほどの展開はもちろんないのだけれども、逆に、百年たってもそれほど変わらないものとしての存在価値に目を向けたほうがよいのかもしれない。
ジョイス、エリオット、プルースト。古典ではあるけれども現役バリバリの作家たちとみなしてよい。
岩波文庫版『荒地』には「荒地」のほかに、『プルーフロックその他の観察』より4篇、『詩集(1920年)』より8篇が収録されてる。本文は原注を含めて127ページ、訳注が155ページ、訳者解説とあとがきで37ページ、全体では323ページの構成となっている。百周年ということもあって今回は訳注もしっかり読んでみた。
ダンテ、ベルクソン、シェイクスピア、聖書、アーサー・シモンズ、ボードレール、ラフォルグ、ジョン・ダン、マシュー・アーノルド、ホメロス、ウェルギリウス、パウンド、ヴィヨン、フレイザーなどなど。様々な作品からの引用と影響関係から作品がつくりあげられていることを知ることができる。また、1968年に発見され1971年に刊行されたエズラ・パウンドの手が加えられる前の「荒地」の草稿との比較検討による詩の生成過程と読み方についての見解は、多くの訳書があるなかで新しく訳出発行されたことの意味を大きくしている。私個人としてはエズラ・パウンドの編集者的な介入の意義に改めて目を向けさせてくれた一冊となった。
ほかには、「シェイクスピヒアリアン・ラグ」の訳注で、第一次世界大戦初期のアメリカではやったジャズの曲ということを示しながら、
むしろ『荒地』全体が、過去と現在の相互浸透としての「シェイクスピアまがいのジャズ」と言うべきかもしれない。
と言っているところが、そんな見方もあるのねと、とても新鮮な感覚を受けた。
トマス・スターンズ・エリオット
1888 - 1965
岩崎宗治
1929 -
参考: