読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アレックス・マリー『ジョルジョ・アガンベン』(原著 2010, 高桑和巳訳 青土社 シリーズ現代思想ガイドブック 2014)

現代イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの入門書で、イギリスで「ラウトリッジ・クリティカル・シンカーズ」(ラウトリッジ批評的思想家)シリーズとして刊行されているものの日本語訳、というところが少し変わっている。アガンベンと言えば普通はホモ・サケル系の政治哲学を中心に解説されることが多いのだが、本書は著者が近代文学研究者でシリーズ的にも批評的思想家を対象としているとうたっていることもあって、言語を論ずる美学者としてのアガンベンに重きを置いて論じているところに特徴がある。主に論じられている著作は以下の通り。

第1章「言語と存在の否定性」:『言語と死』
第2章「インファンティアと考古学的方法」:『幼児期と歴史』
第3章「潜勢力と「到来する哲学の任務」」:『到来する共同体』
第4章「政治―剥き出しの生と主権的権力」:『ホモ・サケル』と『例外状態』
第5章「身振りの故郷―芸術と映画」:『中身のない人間』
第6章「文学という実験室」:『スタンツェ』
第7章「証言とメシア的時間」:『アウシュヴィッツの残りのもの』と『瀆聖』

哲学者ハイデガーヘーゲルから言語学者ヤコブソンやバンヴェニストの仕事へと対象を広げながら言葉を話す人間の言語活動の様相を論じた『言語と死』にもっとも比重を置いているところは斬新。そのほかでも『中身のない人間』『スタンツェ』など美学よりの著作が多く取り上げられているところは、より多くの人にアガンベンへの間口を広げているように思える。またよく取り上げられるベンヤミンからの影響に加えて、政治神学のカール・シュミットスペクタクル社会ギー・ドゥボールからの影響を強く押し出しているところにも新鮮味がある。そのかわりヘーゲルハイデガーをはじめとする政治哲学系の議論への言及が少ないと感じる人が出てくることも想像がつく。どちらかといえば政治よりも文学に興味を持つ人に適した著作であると思う。海外の大学生・院生向きに書かれた本で質は高い。

 

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【目次】
第1章 言語と存在の否定性
第2章 インファンティアと考古学的方法
第3章 潜勢力と「到来する哲学の任務」
第4章 政治―剥き出しの生と主権的権力
第5章 身振りの故郷―芸術と映画
第6章 文学という実験室
第7章 証言とメシア的時間

【付箋箇所】
12, 43, 65, 67, 92, 101, 103, 110, 118, 130, 148, 149, 154, 172, 180, 200, 202, 222, 229, 240, 241, 244, 248, 259, 260, 286, 288

 

ジョルジョ・アガンベン
1942 - 

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