読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

國分功一郎+千葉雅也『言語が消滅する前に 「人間らしさ」をいかに取り戻すか?』(幻冬舎新書 2021)

2017年から2021年までのあいだに40代の哲学者同士が行った5回の対談が収められた一冊。この間に、國分功一郎は『中動態の世界』を出版し、千葉雅也は『勉強の哲学』を出版し、それぞれかなり注目されていたことが思い出される。

本書の冒頭2回の対談は、その著作の出版記念対談で、5年前の2017年。続いての日本の対談が2018年で、グローバル化とネット化した世界でのコミュニケーションとポピュリズムの問題を論じている。最期の一本は2021年で、コロナ下で加速した危険と責任回避を優先する21世紀的な状況について語っている。

哲学の世界においては、20世紀の言語論的転回に対しての、21世紀の情動的転回ということが取り上げられて、くりかえし論じられているところが本書の特徴。全体的には、歴史の重みを知ったうえで物事に対処していくことを是とし、そのためには残された資料に向き合う「勉強」が必要であるという主張で芯を通している。

歴史とは、僕らがどうにもできない地層のようなものであって、僕らの上に重しとしてのしかかっているものです。その重しみたいなものは、勉強を続けないと認識できない。勉強を続けていないから、物語をどう自分たちに都合がいいように改変するかという話になってしまう。
(第2章「何のために勉強するのか―『勉強の哲学』から考える」より 國分功一郎の発言)

「強いて勉める」のが「勉強」であり、そのために二人の対話の中から感じるとることができる重要な態度は、くりかえしテクストを読むということだった。お互いのデビュー作から最新作まで十分に読み込んでいるのはもちろんのこと、話題に上ったドゥルーズアレントアガンベンなどをくりかえし読んで問題化し検討している姿がよく見えた。千葉雅也の近著『現代思想入門』でもくりかえし読むことの大切さは説かれていたので、参考にし見習っていきたい。

対話自体は困難な問題を論じているにもかかわらず、気心知れた者同士の対話のためか、あまり窮屈な感じはしない。大学の後輩に当たる千葉雅也が、先輩格の國分功一郎の秘められた凶暴性と偏向を、愛情をもって繊細にユーモラスに浮かび上がらせているところなどが印象的だった。

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【付箋箇所】
39, 47, 49, 53, 57, 66, 70, 77, 92, 93, 100, 101, 102, 113, 115, 123, 124, 128, 137, 142, 152, 153, 156, 160, 162, s164, 170, 196, 202

目次:
第1章 意志は存在するのか―『中動態の世界』から考える
第2章 何のために勉強するのか―『勉強の哲学』から考える
第3章 「権威主義なき権威」の可能性
第4章 情動の時代のポピュリズム
第5章 エビデンス主義を超えて


國分功一郎
1974 - 
千葉雅也
1978 - 

 

 

 

※本日は皆既月食。19:59現在、食の最大を迎えている。赤銅色の月が東の空高く掛かっていた。
※去年の月食は11/19。酔っ払いながらブログを書きつつ見ていたが、本日は素面。

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