読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

立木康介『ラカン 主体の精神分析論』(講談社選書メチエ シリーズ極限の思想 2023)

ラカンが最も多く参照する哲学者であるアリストテレスにおける「原因」と「偶然」の概念から、ラカン精神分析がいかなる部分を継承し、さらに超えていったかを、主体の構造という観点から説いた一冊。著者のフランス語の学位論文をベースに翻訳再編集した本書は、おもにラカンセミネールⅩ『不安』とⅩⅠ『精神分析の四基本概念』での思考を扱っており、欲望の原因であるところの対象aと主体成立の枠組みを中心に展開されている。

序章に記された「ラカンにとって、シニフィアンは自律的な構造(および法)をもつが、シニフィエはそのシニフィアンの連接の「効果」にすぎない」というところから、本篇終結部での「対象aは、現実界とのあいだに私たちがもつ絆の固有名なのである」まで、質量がもたらす亀裂を、主として言語という物質の側面から、アリストテレス、アウグスチヌス、ヒューム、カント、ラッセル、ウィトゲンシュタインハイデガーの説と比較しながら哲学的に検討していくところは、ラカンセミネール自体を読むよりも整理されていてより理解しやすくなっている。そして、ラカンばかりでなくアリストテレスやほかの哲学者への案内になっているところが気が利いている。精神分析に関心をもって入る者と哲学に関心をもって入る者と両方に対応しているところは間口が広くて好ましいと私は思った。

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【目次】
序 章 精神分析ラカンの軌跡
第1部 アリストテレスにおける「原因」
 第一章 四つの原因
 第二章 アウトマトンとテュケー
 第三章 質料と偶然
第2部 ラカンにおける原因と対象
 第一章シニフィアン因果性の三平面
 第二章ラカンにおけるテュケー
 第三章 原因としての真理、対象の機能

【付箋箇所】
16, 44, 54, 73, 81, 86, 98, 106, 110, 115, 148, 154, 156, 168, 191, 195, 213, 223, 229, 251, 278, 280, 281, 282, 285, 292, 298, 307, 312, 320, 323, 326, 332, 351, 352, 354, 355, 365, 367, 370, 375, 381, 383, 387, 392, 397, 

ジャック・ラカン
1901 - 1981

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立木康介
1968 - 

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