読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『フロイトの技法論』セミネールⅠ巻(セミネール 1953/4 原書 1975, 岩波書店 1991)

現実的なもの-想像的なもの-象徴的なもの(現実界-想像界-象徴界)の関係がランガージュ(言語活動)とパロール(はなし・ことば)のはたらきから徐々に理解できるようにすすむ一番最初のラカンセミネール。50代前半の脂の乗ったときの仕事。以前読んだときにはわからなかったラカンの繊細さのようなものも感じとることができたので満足感も大きい。

精神分析は一つの弁証法です。それはモンテーニュがその著作の第三巻八章で「対話術」と名づけているものです。『メノン』におけるソクラテスの対話術、それは奴隷に対して奴隷自身のパロールに真の意味を与えることを教えることです。そしてこの対話術はヘーゲルにおいても同じものです。言い換えると、分析家の位置は、「ignorantia docta(無知であることを知っている知)」という位置でなくてはなりません。それは、知識のことではなくてむしろ形づくるということです。そしてそのことが主体にとって形成的であり得るのです。
我々は時代の雰囲気、この憎しみの時代の雰囲気にあるので、「ignorantia docta」を、「ignorantia docens(教えるという無知)」と私が呼んだ――昔から言われていることですが――ものに変えてしまおうとする誘惑は極めて大きなものです。
(ⅩⅩⅡ「分析の概念」下巻 p192 )

身体的な機能疾患に対する対応たる薬剤投与では得られない人間同士の対面対話による象徴界の再編成にかかわる分析の効能というものがじんわり伝わってくる贅沢なセミナー。

 

www.iwanami.co.jp

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目次:

[上巻]
セミネールの開講

抵抗の瞬間
 フロイトの技法論の検討への序言
 抵抗の問題についての最初の発言
 抵抗とさまざまな防衛
 自我と他者
 フロイトの『Veerneinung(否定)』に関するジャン・イポリットの報告への序と解答
 ディスクールの分析と自我の分析)

想像的なものの局所論
 狼!狼!
 ナルシシズムについて
 2つのナルシシズム
 自我理想と理想自我
 時間的‐発達史

[下巻]
心理学の彼岸
 欲望のシーソー
 リビドーの波動
 抑圧の核
ミカエル・バリントの袋小路
 バリントについての最初の発言
 対象関係と間主観的関係
 象徴的次元
転移におけるパロール
 パロールの創造的機能
 De Locutionis Significatione
 取り違えから現れる真理
 分析の概念

【付箋箇所】
[上巻]
ⅶ, 19, 20, 21, 38, 50, 52, 61, 67, 74, 76, 86, 114, 128, 135, 142, 165, 168, 171, 175, 187, 194, 195, 198, 216, 225, 226, 238, 239, 245, 252, 255, 257, 258
[下巻]
12, 17, 20, 23, 24, 38, 55, 59, 90, 92, 97, 101, 109, 132, 136, 150, 157, 159, 160, 173, 179, 188, 192, 196

 

ジャック・ラカン
1901 - 1981

 

参考:

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com