読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

木下長宏『美を生きるための26章 ―芸術思想史の試み―』(みすず書房 2009)

2005年5月から2024年の現在に至るまで横浜でつづいている勉強会「土曜の午後のABC」の最初期の芸術全般を扱った講義をまとめて一冊にしたもの。上下二段組で本篇全437ページとボリュームは相当なものだが、内容的には平易な言葉でそれぞれの芸術家の基本姿勢とそれに向き合う鑑賞者がとるべき基本姿勢について諄々と語っているため、それほど重くはない。どちらかと言えばマイナーな対象について愛しむように語っているような雰囲気があり、読み手は自分が特に感応したものに関して自分で接してみようと思うようになりやすい。今はスマホですぐに調べながら読むことが可能なので、知らない作家の作品にすぐに接触できるのが心地よい。全く知らないアナ・メンディエタからどこかで見たことのある塩田千春へと検索対象が広がって、しばらく作品鑑賞できたのは全く本書のおかげで、すこしだけ世界が広がった気分が味わえた。
既成の評価や分類にとらわれず、自分自身が作品にじかに触れて、作品そのものを体験していくことの大切さを教えてくれる一冊。方法論ではなく実践的なところからの教えが印象に残る。

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【目次】
A レオン・バティスタ・アルベルティ 近代の始まり
B 與謝蕪村 不用意という方法
C 屈原 植物器官の視点/古代アジア文学
D 大乗寺 観[み]ることと観[かん]じること
E ワシリィ・エロシェンコ 童話にならない童話のための非擬人法
F ミシェル・フーコー 「人間」を離脱して人間になる
G アルベルト・ジャコメッティ 眼を裏切る掌
H 埴師—土師 すべては掌のなかの土から始まる
I 北一輝 詩の捨てかた
J イエス 十字架が意味するもの
K 土田杏村 「大学」の外で築く思想
L ラスコー 生命と触れ合う絵
M アナ・メンディエタ 芸術以前へ
N 中井正一 生きかたの問いとしての美学を求めて
O 岡倉覚三 美術史を生きようとした男
P マルセル・プルースト 未完という完成
Q ドン・キホーテ 「狂気」のゆくえ
R 幸田露伴 「近代」を丸呑みするまなざし
S 坂口安吾 「必要」の形而上学
T 敦煌莫高窟 土と植物が作る古代アジアの美
U 浮世又兵衛 波乱を画風[スタイル]に生きた絵師
V ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ 裡なるピアニッシモを求めて
W シモーヌ・ヴェイユ 世界を身体全体で捉え考える
X フランシスコ・デ・ザヴィエル 異国の美とはなにか。あるいは〈X〉をめぐって
Y 尹東柱 一篇の詩の運命
Z 張彦遠 作品のない美術史

【付箋箇所(上段a, 下段b)】
18a, 39a, 107b, 117a, 118a, 139b, 142a, 146b, 194, 220b, 232, 234a, 235a, 242a, 249a, 267b, 290a, 293a, 295a, 300b, 307a, 309b, 311a, 322b, 326b, 327b, 336b, 340a, 342a, 342b, 343a, 344b, 345b, 346b, 348a, 350a, 351b, 352a, 355a, 360b, 361b, 365b, 377a, 378a, 388a, 394bs

木下長宏
1939 - 

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