エーリッヒ・アウエルバッハ『ミメーシス』
筑摩書房 ミメーシス (上) / E・アウエルバッハ 著, 篠田 一士 著, 川村 二郎 著
1946, 1953(英訳), 1967(筑摩叢書版), 1994(ちくま学芸文庫)
相対立するこれら二つの文体は、二つの基本型を表している。すなわち、一方は、すべてを入念に形象化する描写、均一な照明、隙間のない結合、自由な発言、奥行きのない前景、単純明瞭な一義性、歴史的発展や人間的・問題的な要素の乏しさ、という特色を持っており、もう一方は、光と影の際立った対照、断続性、表現されないものを暗示する力、背景をそなえた特性、意味の多様さと解釈の必要、歴史的要求、歴史の展開に関する概念の形成、問題性への深化、などの特色を持っている。p51
ホメロスの韻文、特にイーリアスにおいては様式美が追及されているように私は感じる。
その投槍をアテーネーが、
眼のわきの、鼻筋へと導き、白い歯並をつきとおさせた。
それから舌を、摩り減らない青銅が 根本からすっぽり断ち切り、
その鋩(きっさき)は顎(おとがい)の 底のわきから外へ つき出たのに、
戦車から倒れて落ちれば、身体(からだ)の上に物の具が からから鳴った、
きらきらと輝き渡って。
(『イーリアス』第五書 290~295行)
聖書には信仰を持っていないものにも人間の関係性の表現で訴えかける力があるように思う。
アブラハムは燔祭のたきぎを取って、その子イサクに負わせ、手に火と刃物とを執って、ふたり一緒に行った。 やがてイサクは父アブラハムに言った、「父よ」。彼は答えた、「子よ、わたしはここにいます」。イサクは言った、「火とたきぎとはありますが、燔祭の小羊はどこにありますか」。 アブラハムは言った、「子よ、神みずから燔祭の小羊を備えてくださるであろう」。こうしてふたりは一緒に行った。
(旧約聖書「創世記」第二二章 6~8節 日本聖書協会 口語訳)
エーリッヒ・アウエルバッハ
1892 - 1957
篠田一士
1927 - 1989
川村二郎
1928 - 2008