読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その5:中間休止で体制紹介+「フィネガンズ・ウェイク中間休止五句」

原典ノンブルによる進捗:308/628 (49.0%) +2行でSTAY

飲んじゃったら読みすすめられなくなったので、第Ⅰ部終了時にやろうと思っていた、現在の読解環境を紹介。

ジェイムズ・ジョイスが孫に向けて書いたお話をもとにつくられた絵本『猫と悪魔』は、愛すべきおじいちゃんとしてのジョイスの姿に接することができて、大変貴重。大御所の至高の作品としての『フィネガンズ・ウェイク』という思い込みを取っ払ってくれるのに非常に役立ったし、『フィネガンズ・ウェイク』を読みすすめる際にも絵本『猫と悪魔』の作者としてのジョイスが甦ってきて、なんというか、ほんわかさせてくれる。当たりの一冊。絶版ぽいので図書館で探してみてください。

 

本日読みすすめられなくなってやったのは、酔っていてもある程度正確に評価できる比較の作業。でも。これはいくら時間があっても足りないと思ったので、ほんのさわりだけご紹介。柳瀬尚紀の翻訳の姿勢について、一読者が全て知ることは不可能だと思うけれど、その覚悟の姿勢はなんとなく伝わってくる。

【原文】
he was an outlex between the lines of Ragonar Blaubarb and Horrild Hairwire and an inlaw to Capt. the Hon. and Rev. Mr Bbyrdwood de Trop Blogg was among his most distant connections

 

【筑摩世界文学大系68 大澤正佳ほか訳】
彼はラゴナール・ブラウバルブとホリルド・ヘヤワイヤの血統の出生で軍人・政治家にして僧侶たるバードウッド・デ・トロップ・ブロッグ氏の身内が彼のもっとも遠い縁者のひとりであった

 

柳瀬尚紀訳】
神黄昏の青髭ラゴナルと針金髪ホリルドの血を引く不義っ子で過訛閣下大将師(かかかっかだいしょうし)なるヒゲノモリ氏の近戚が一番の遠戚の一人だというので

 

 

柳瀬訳は訳注を用いず、訳文のなかに原文が意図したと思われることを忠実に注入している。しかも、全体的な意味合いを感得することはできていないのだが、上記引用箇所は柳瀬訳では旧字旧仮名の総ルビ表記となっている。もう信念に従ってジョイスに一番近い日本語訳文をつくり出しているとしか思えぬ仕事となっている。意味をとるのにわかりやすいのは、なんといっても筑摩世界文学大系的な常識的訳文+訳注というかたちなのだろうが、それではジョイスの魂が抜ける。雑味が加わる。そうしたことを嫌う姿は、丸谷才一ほかが訳した『ユリシーズ』の出来を正当にもボコボコにした『ユリシーズ航海記』でも確認できる。


でも、ちょっと罪作りですよ。『ユリシーズ』についての流通版は、何と言っても丸谷才一ほか訳バージョンなので…。

 

【チャレンジ読解環境】

1.主対象:河出書房新社発行ハードカヴァー
・『フィネガンズ・ウェイク Ⅰ・Ⅱ』(1991)
・『フィネガンズ・ウェイク Ⅲ・Ⅳ』(1993)

www.kawade.co.jp

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2.比較対象訳文
・筑摩世界文学大系68『ジョイスⅡ・オブライエン』(1998, 『フィネガンズ・ウェイク』から5つの断章を訳出。原文・訳注付き)

3.参考文献
・A・N・ファーグノリ+M・P・ギレスピー 『ジェイムズ・ジョイス事典』(原書1995, 訳書 松柏社 1997)

https://www.shohakusha.com/book_detail/136


ジェイムズ・ジョイスの絵本『猫と悪魔』(小学館 1976 丸谷才一訳)

柳瀬尚紀ユリシーズ航海記』(河出書房新社 2017)

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フィネガンズ・ウェイク中間休止五句】
無理を見に時間感覚酔い任せ
留まれよ、理性の推理+エポケ漏洩(もれ)
血中のアルコールには欣喜禁
禁忌菌禁欣喜筋勤基金(キンキキンキンキンキキンキンキキン)
戒は戒破戒は破戒快痒い


ジェイムズ・オーガスティン・アロイジアス・ジョイス
1882 - 1941
フィネガンズ・ウェイク』 Finnegans Wake
パリ、1922 - 1939
柳瀬尚紀
1943 - 2016