読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

神話

ジョーゼフ・キャンベル『神話のイメージ』(原著 1974, 大修館書店 訳:青木義孝+中名生登美子+山下主一郎 1991)

古代から脈々と連なる世界各地の神話を広く繊細な視点から重層的に扱い、霊的世界と物質的現世世界の合一を主テーマとする各神話を貫くイメージを421点の図版を通じて解き明かしていく。全世界に広がる同系のイメージを、同時発生的なものと考えるより、なん…

小林一枝『『アラビアン・ナイト』の国の美術史 【増補版】イスラーム美術入門』(八坂書房 2004, 2011)

イスラムの世界では「礼拝の対象としての聖像・聖画さらに宗教儀礼用の聖具を持たない」。建築以外には宗教の美を持たないとされ、「神の創造行為につながる生物の造形表現」に対する禁忌の念が、イスラム美術といわれる表現の領域において独特の基底を形作…

ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ『神話の力』(原著 1988, 早川書房 飛田茂雄訳 1992)

『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスが大きな影響を受けたアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルに、ホワイトハウス報道官も務めたことのある先鋭博学のジャーナリストビル・モイヤーズが問いかける、知的興奮に満ちた対談集。生の冷酷な前提条件…

訳註 沓掛良彦『ホメーロスの諸神讚歌』(平凡社 2009)

古典注入。岩波文庫に逸身喜一郎+片山英男訳で「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」(1985)があるが、こちらは全訳。全33篇の翻訳と訳注、解題から構成される。本日読んだのは本編と解題。本編だけからでは読み取ることができない詩文に込められ…

中沢新一『精霊の王』(講談社 2003, 講談社学術文庫 2018 )神楽、申楽、猿楽の翁という日本的精霊、後戸の神の振舞いに感応する精神と身体

『精霊の王』は、著作の位置としては『日本文学の大地』『フィロソフィア・ヤポニカ』のあと、カイエ・ソバージュシリーズの執筆を行なっていた時期の作品。この後、『アースダイバー』『芸術人類学』とつづいている。『日本文学の大地』で能の理論家として…

旧約聖書の世界のはじまり

ビッグバンモデルとの親和性という言説もちらほら見かけているために、創世記では「光あれ」という言葉が最初にあるというようにイメージの書き換えが私の中で起こっていたのだが、実際に読み返してみると、光の前に天も地も水もあって、他の世界創造神話と…

井澤義雄訳『ヴァレリイ詩集』(彌生書房 世界の詩17 1964)日本の文語調韻文というものを強く意識してなされた訳業

訳詩は訳者によって印象が異なってくるので、関心のある詩人については複数の訳者の訳業を比べてみたくなる。とくに原語で直接味読できない詩人に関しては、そうやって理解の幅と深さを拡張していくほかはない。 ヴァレリーの詩の翻訳と言えば岩波文庫でも読…

岡田温司『天使とは何か キューピッド、キリスト、悪魔』(中公新書 2016)境界域で活動する天使という中間的な存在

神学的な天使の考察ではなく、文化的表象、イメージとしての天使の位置と歴史的変遷をあつかった一冊。 わたしが強調しようとしたのは、天使の表象が、古来より基本的にずっと、キリスト教と異教、正統と異端との境界線を揺るがしてきた、ということである。…

シャルル・ステパノフ&ティエリー・ザルコンヌ著、中沢新一監修『シャーマニズム』(原書2011 創元社「知の再発見」双書162 遠藤ゆかり訳 2014)豊かな自然と祝祭を喜ぶ精霊と交信するシャーマンという存在

一神教以外の聖なるものについての情報補給。シベリア、北アジア、中央アジアのシャーマンについての最近の研究の成果を、多くの図版とともに提供してくれる一冊。ソビエト社会主義連邦統治下では抑圧されていた宗教活動と研究が解放されたが故の活動の記録…

大貫隆 訳・著『グノーシスの神話』(講談社学術文庫 2014, 岩波書店 1999, 2011) 光と闇の二元論

キリスト教正統からの批判対象としてグノーシスが出てくるときに、すぐにイメージが湧いてこない状態にあったので、情報注入のためにグノーシス紹介書籍を一冊通覧。光と闇との二元論。精神あるいは魂が光で善、肉体および物質が闇で悪ととらえる世界観。 否…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その10(延長1回ゲームオーバー 「わが時は樽生なり。汝の時を瓶詰にせよ。」):最後の小説と「フィネガンズ・ウェイク九句 七、八の段」

原典ノンブルによる進捗:628/628 (100.0%) 2020.07.22(水曜夜)~ 07.28(火曜夕)おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉(芭蕉)循環する小説とされる『フィネガンズ・ウェイク』をワンセット読み通した今、達成感よりもかすかな哀感が滲んできている。それは読…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その9:「飲んだら読むな、読むなら飲むな」

原典ノンブルによる進捗:501/628 (79.8%) 飲んだら読むな、読むなら飲むな。そんな作品が存在する。 TVショーでのお笑いは、視聴者のセンスがよほど崩壊していない限り酔っていても十分楽しめるけれど、読書においては読み手の読み取りの能力が少しでも減退…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その8:何も書かれていない書物と「フィネガンズ・ウェイク九句 六の段」

原典ノンブルによる進捗:455/628 (72.5%)文学の世界では「何も書かれていない書物」という極限があって、一方にマラルメの『骰子一擲』、もう一方にジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』がある。極限まで削られた言葉と極限まで多層化されベクトル積算で圧…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その7:中間休止2としてティム・バートン『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)をDVDで(2周くらい)再視聴する+「フィネガンズ・ウェイク中間休止2 ジャックの句」

進捗:400/628 (63.7%) 第Ⅱ部終了状態でSTAY 異なるフィクション空間での相互干渉を期待して、前回のエントリーで名前を出したティム・バートン『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)のDVDを呑みながら2周くらい観る。フィクションでの本当らしさ…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その6:ジョイス語公用のナイトメア的世界と「フィネガンズ・ウェイク九句 五の段」

原典ノンブルによる進捗:400/628 (63.7%) 第Ⅱ部終了『フィネガンズ・ウェイク』の形式はほぼト書きなしの演劇台本みたいなもので、その中身はおおむね聖書のパロディでできている。語られる内容は、飲食と性交と排泄と論争(というかからかい合いとののしり…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その5:中間休止で体制紹介+「フィネガンズ・ウェイク中間休止五句」

原典ノンブルによる進捗:308/628 (49.0%) +2行でSTAY 飲んじゃったら読みすすめられなくなったので、第Ⅰ部終了時にやろうと思っていた、現在の読解環境を紹介。 ジェイムズ・ジョイスが孫に向けて書いたお話をもとにつくられた絵本『猫と悪魔』は、愛すべき…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その4:パロディとしての近代小説と「フィネガンズ・ウェイク九句 四の段」

原典ノンブルによる進捗:308/628 (49.0%) 近代小説は神話やロマンスのパロディとして出てきたものだ。セルバンテスの『ドン・キホーテ』は騎士道物語、フロベールの『ボヴァリー夫人』は恋愛物語のパロディとして成立している。主人公は近代の出版事情から…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その3:原文を読んでみたいと思わせる翻訳の力と「フィネガンズ・ウェイク九句 三の段」

原典ノンブルによる進捗:195/628 (31.1%) 『フィネガンズ・ウェイク』の柳瀬尚紀の翻訳が、単純な直訳ではなく、繊細な読解と大胆な日本語化能力を併せ持った人物の手ではじめてなしとげられた驚くべき業績だということは、一般読者層にもストレートに伝わ…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その2:意外にわかりやすい部分の初引用と「フィネガンズ・ウェイク九句 二の段」

原典ノンブルによる進捗:113/628 (18.0%) 『フィネガンズ・ウェイク』はどんな話かというと、今読んでいる部分(第Ⅰ部)に関しては、アダムっぽい風味付けをされた中年男H.C.Eとイブっぽい風味付けをされたA.L.Pをめぐる評価話みたいなものではないかと思っ…

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その1:「フィネガンズ・ウェイク九句 一の段」

原典ノンブルによる進捗:74/628 (11.8%) ちょこちょこ検索したりしながら読んだりしているとページ当たり5分くらいかかっている計算になる。四日で読み終わるかどうかちょっと心配。 ※読みながら無季俳句とか作って遊んでいるのも時間がかかっている原因な…

マンフレート・ルルカー『シンボルとしての樹木 ボッスを例として』(原書1960, 法政大学出版局1994)

ヒエロニムス・ボッスの植物系の形象について、理解が深くなればいいなと思い読みすすめてみたところ、ボッスよりもゴッホの樹木の意味合いについて教えられることが多かった。 錬金術においては、樹木は錬金術的変容の諸相の象徴とみなされ、梯子のように一…

千足伸行 すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画【改訂版】

ホメロスとウェルギリウスを読んで神話の神々にも親しみが湧いてきたので、ビジュアル面でも補強。 東京美術 すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画【改訂版】 上記サイトでの紹介記事: 描かれた場面のベースとなったのはどんなストーリーか、作品にはどの…

ギリシア悲劇 オレステイア三部作(アイキュロス)+「エレクトラ」(ソポクレス) 脳内上演

時系列に沿うと以下の順に上演される。 〔脳内上演:名前のあるものに配役を割り振って戯曲を読んでみている〕 1.「アガメムノン」 アイキュロス作 物見の男 合唱隊(コロス) 報せの使い クリュタイメストラ(アルゴスの王妃):小泉今日子 タルテュピオ…

ギリシア悲劇 オイディプス テーバイ王家の悲劇四作(ソポクレス テーバイ三部作+アイキュロス『テーバイ攻めの七将』) 脳内上演

時系列に沿うと以下の順に上演される。キャストは脳内上演用(私的チョイス)。 制約ある人間界での自分の責任の取り方は、自裁という形でしか成就できないのかと心ざわめく感があるが、死者それぞれの最期の姿は記憶に留め置くだけの衝撃がある。 死に向き…

ウェルギリウス 『アエネーイス』 全十二巻概要 あらすじ

アエネーイスウェルギリウス訳:泉井久之介 www.iwanami.co.jp 全十二巻概要: 巻数 行数 概要:私的な要約、あらすじ 第一巻 756 トロイア陥落後、アエネーアースは七年ものあいだ海上をさまよい、その後、天上の神々の争い・はかりごとのなか、カルターゴ…

ギルガメッシュ叙事詩+イシュタルの冥界下り

ギルガメッシュ叙事詩+イシュタルの冥界下り訳:矢島文雄 筑摩書房 ギルガメシュ叙事詩 / 矢島 文夫 著 【ギルガメッシュ叙事詩】 ギルガメッシュよ、あなたはどこまでさまよい行くのですあなたの求める生命は見つかることがないでしょう神々が人間を創られ…

呉茂一のホメロス『オデュッセイア』 全二十四書概要と脳内上演キャスト

ホメロス『オデュッセイア』訳:呉茂一 とりあえず通読完了。岩波文庫上下巻。 脳内上演キャスト: アテーネー : 二階堂ふみ ゼウス : 吉田鋼太郎 ヘルメース : 染谷将太 カリュプソー : 戸田恵梨香 テーレマコス : 伊藤健太郎 オデュッセウス : 江口洋介 ペ…

ピロストラトス 『英雄が語るトロイア戦争』

ピロストラトス 英雄が語るトロイア戦争 www.heibonsha.co.jp 訳:内田次信 ホメロスとオデュッセウスに対する批判がベース。トロイア戦争の別視点からの対話劇形式による報告。 ホメロスの関心はアキレウスとオデュッセウスにばかりに集中していたので戦の…

高橋睦郎 『つい昨日のこと 私のギリシア』

高橋睦郎つい昨日のこと 私のギリシア 思潮社 新刊情報 » 高橋睦郎『つい昨日のことーー私のギリシア』 2018 80歳の最新詩集。いい歳の取り方をされているが、やはり老いと死がテーマとなる事が多い。ソクラテスの死が幾度か取り上げられているのが印象に残…

知の再発見双書151 『ホメロス ― 史上最高の文学者』

知の再発見双書151ホメロス ― 史上最高の文学者アレクサンドル・ファルヌー著本村凌二監修遠藤ゆかり訳 www.sogensha.co.jp2010, 2011 フランスのギリシア美術史教授によるホメロス情報をコンパクトにまとめた一冊。本の半分くらいを占める図版が有益。 個人…