読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ポール・クローデルの戯曲『マリヤへのお告げ』(原書1912, 鈴木力衛・山本功訳 1976 )クローデル劇作品の中のひとつのピーク。現代では上演は難しいであろうあやしい果実。

劇的効果に冴えを見せる中世を舞台とした宗教劇。ままならぬ想いに、世界は暗く沈み込むようなすすみゆきを見せるが、苛烈な奇跡と恩寵によって人々の世界は一変する。若い世代の男性二人女性二人の関係性が八年の時間経過の中で鮮やかに描き出される。女性陣のコスチュームプレイも見どころ読みどころ。


【脳内上演キャスト】
アンヌ・ヴェルコール (ヴィオレーヌとマラの父): 生瀬勝久
ジャック・ユリ (ヴィオレーヌの婚約者、後にマラの夫): 工藤阿須加
ピエール・ド・クラオン (建築技師): 吉沢亮
母親 (エリザベート): 戸田恵子
ヴィオレーヌ : 浜辺美波
マラ (ヴィオレーヌの妹): 清原果耶
 その他大勢

 

【特徴的なセリフ】
アンヌ・ヴェルコール (ヴィオレーヌとマラの父): 生瀬勝久
 わたしにはなにもないのだ。この土地も、もはや、わたしのものじゃない。いちど出かけた者は、引っ返すことはできないし、いちどひとにやったものは、取り返すことはできない。
 
ジャック・ユリ (ヴィオレーヌの婚約者、後にマラの夫): 工藤阿須加
 ああ。これはあんまり残酷だ! さあ、なにか言ってくれ、言うことがまだあるのなら。ぼくはそれを信じるよ、話してくれ、お願いだから。言ってくれ、そんなこと、なにもかもうそだったと。
 
ピエール・ド・クラオン (建築技師): 吉沢亮
 でも、礎になる石と、頂きに必要な石とはちがうんですよ。

 

母親 (エリザベート): 戸田恵子
 とてもやさしい言葉だね、それは。でも、そのなかには、なにかあるよ。さっきおまえがわたしに言った言葉のなかにも。なにか、わたしにははっきりわからない、奇妙な、気にかかるものが。
 
ヴィオレーヌ : 浜辺美波
 いまのわたしの姿、この魂だけじゃいけないの? これだけでは、まだ、十分じゃないの? あなたも、いまわたしの言った崇高な思いにとらえられえいるのね? いいわ、それじゃ、聴いて、どんな炎に焼かれているか!
 

マラ (ヴィオレーヌの妹): 清原果耶
 神さまなら、わたしもあがめているわ。でも、よけいなおせっかいはしてもらいたくないの! わたしたちの不幸な人生は、あまりにも短いんだもの! 勝手にやらせてほしいと思うわ。

 

「神は死んだ」と言われた後の世でも、信仰をもつ人の思いにはゆるぎのないものがあるのだろう。傍観者にも、伝わってくるものがある。二度三度のたたみかける反転が尊い緊張感を作り出している。

 

※『筑摩世界文学大系56』所収


ポール・クローデル
1868 - 1955
鈴木力衛
1911 - 1973
山本功
1927 - 1974