読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

岩波日本古典文学大系89『五山文學集 江戸漢詩集』(岩波書店 1966 山岸徳平校注)から五山文学の漢詩を読む

五山文学は鎌倉室町期の臨済宗の僧侶たちの手による漢詩の作品。読み下し文をたよりに単に読み通すだけだと、パターン化された憂愁を詠った作品が多くて、悟った僧たちのくせに何をやってるのだろうと感じたりもするのだが、作品を書いた意図としては無聊の慰めだったり僧同士の挨拶だったりで、文芸的な表現の腕を真剣に競ったり自己表出に賭けたりするよりも軽い気持ちで向き合ったものなのかもしれないと思うようにもなった。書として楽しむという側面もあったのだろうし、必ずしも意味内容だけが大事ということもないのだろう。

 

寂室元光(じゃくしつげんこう 1290-1367)

山居

不求名利不憂貧
隠處山深遠俗塵
歳晩天寒誰是友
梅花帶月一枝新

名利(めいり)を 求めず 貧をも 憂へず
隠處の山は 深くして 俗塵を 遠ざかる
歳晩は 天寒くして 誰か是れ 友なる
梅花は 月を帶びて 一枝 新(あらた)なり

 

水墨画をしたためたりしながら、文字を含めた景色を淡く味わっていたのかもしれない。

新日本古典文学大系48の『五山文学集』では九名の作品掲載にとどまっていたが、岩波日本古典文学大系89には三〇名の作品が収録されていて、より幅広く五山文学の様子を知ることができる。

【付箋箇所】
明極楚俊の「山居」、虎関師練の「雨」「冬月」、寂室元光「山居」、夢巌祖応「二月六日賦所見」、龍湫周澤「掃葉」、中恕如心「寄友人」、惟忠通恕「倦鳥」、江西龍派「寒塘小景」、一休宗純「葉雨」、景徐周麟「鴉背夕陽」


山岸徳平
1893 - 1987