読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【読了本四冊】白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー)、ドニ・ユイスマン『美学』(白水社文庫クセジュ)、斉藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)、鈴木大拙『華厳の研究』(角川ソフィア文庫)

白川静梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー 2011, 平凡社 2002)

日本が誇る変人師弟対談。白川静が師、梅原猛が弟子という、異次元を垣間見させてくれるような組合せ。

独自の思想を抱いてしまった思想家の語りが日常の思考を揺さぶらずにはおかない。

本書の中では「訓読みをするのは日本人だけです」という白川静の指摘がいちばん衝撃的。

日本人であれば漢字の「訓読み」に想いをはせる必要があるといいたそうな熱に、とにかく同調する必要がありそうに感じさせてくれる。異様に存在感のある語りに出会える一冊。

 

www.heibonsha.co.jp

目次:
第1章 ト文・金文―漢字の呪
第2章 孔子―狂狷の人の行方
第3章 詩経―興の精神

白川静
1910 - 2006
梅原猛
1925 - 2019

ドニ・ユイスマン『美学』(原書 1954, 白水社文庫クセジュ 久保伊平次訳 1959)

20世紀中盤のフランスの美学書。ヘーゲルの『美学講義』のあとで読むのには、ちょうどいい作品。「美学の歩み」を中心に美をめぐる言説についてまんべんなく概説してくれている。カントーヘーゲルからアドルノにいたるまでの美学の大筋の流れを確認することができる。

ドニ・ユイスマン
1929 - 2021
久保伊平次
1906 - 1991

 

斉藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書 2020)

脱成長、脱資本主義。共有財(コモン)の復権と、コミュニズムの拡張。
持続的に人類が生存可能な世界を形づくる方向性としては、脱成長の世界しかないというのはおそらく正しい。
ただ、正しいことをストレスなく争いなく実現できるかどうかは甚だ疑問。
3.5%の人が本気で改革に乗り出せば世界は変わるというところに著者は期待しているが、本気ではない人の5%の消費抑制行動や不買運動や選択的購入行動など、無理なく参加できるところから変革につながる活動の意義も取りあげてもいいかもしれないと思っている。あからさまに闘わないフィールドでの闘争(逃走)の選択肢もあってほしい。

shinsho.shueisha.co.jp


斉藤幸平
1987 -

 

鈴木大拙『華厳の研究』(原書 1955, 杉平顗智訳 角川ソフィア文庫 2020 )

鈴木大拙による大乗仏教の中国的展開である華厳経と禅の世界に関する講和。言語による華麗な華厳経の世界と、言語の機能を疑問視する禅の言語ゲームの世界を、一度に説いて伝えようとした書物。禅の師弟問答は、禅の言語ゲームに参入しないと分かりづらい、あるいはわかりようがないということが分かる一冊。禅問答が禅を行く人たち固有のコードをめぐる言語ゲームであるなら、苦労して理解するとこもないだろうと思わせてくれた一冊。禅的悟りなどとは別の言語ゲームの展開で、菩薩道を行く道もあるだろう。

www.kadokawa.co.jp

目次:
第一篇 禅から華厳経
第二篇 華厳経、菩薩理想及び仏陀
第三篇 菩薩の住処
第四篇 華厳経における発菩提心

鈴木大拙
1870 - 1966
杉平顗智
1899 - 1984
安藤礼二
1967 -