読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ミヒャエル・エルラー『知の教科書 プラトン』(原書 2006 講談社選書メチエ 2015)

著者ミヒャエル・エルラーは2001年から2004年まで国際プラトン学会会長を務めたドイツ人研究者。ちなみに日本人では納富信留が2007年から2010年まで会長職を務めている。

最新の研究データをとり入れながら偽作を含めてプラトンの生涯と作品全体を見渡せるように設計された充実した入門書。訳者があとがきで一般読者だけでなくプラトン研究者にとっても極めて有益な情報が含まれている一冊と絶賛しているだけのことはあって、プラトンの思想により親しみ近づけたという感覚を一読もたらしてくれる。

著者のプラトン読み解きの叙述の仕方は以下のような感じ。

『国家』や『パイドロス』においてとりわけ非合理的な魂の要素が関心を惹いているとすれば、『ティマイオス』においては――この対話篇の自然哲学的な主題設定に応じて――心身問題的な側面が前面に出てきている。『ティマイオス』においても魂の理知的な部分が魂の核をなしており、そこに身体化される際に二つの非合理的な部分が付け加えられる(69c-d)。とはいうものの、魂の身体に対する関係がとりわけ重要である。というのも、たとえば魂があまりに探究や教育に熱心になり過ぎる場合には(86b)、魂が身体に対する関係において力を持ち過ぎてしまいかねないと警告されているからである(87c-88a)。そうなると魂は身体の均衡を失わせ、病気にしてしまう。均衡のとれた心身の関係(88c)は人間の健康にとって不可欠なのである。
(第七章「プラトン人間学」2 魂の本質について 「翼のある二頭立ての馬車」p224 )

対話篇の対応箇所を小まめに示しつつ論じてくれているので、自分自身でたどりなおすのに非常に便利。また、哲学的興味の部分と文芸作品的興味の部分を共に掬いあげながらの叙述なので、読みものとしての興味も持続させてくれるように配慮されている。本文356ページと入門書にしてはすこし厚めの一冊であるが、味わいはとても軽やか。

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【付箋箇所】
33, 82, 121, 131, 159, 211, s218, 224, 236, 242, 244, 312, 320, 331, 349 


目次:
その人物と生涯
作品と著者
文脈の中のプラトン
継承と刷新―プラトンの文化批判
ソクラテスの徒プラトン―認識への道
プラトンと言語
プラトン人間学
「この世からかの世へ」(『テアイテトス』176a-b)―経験界とイデア
プラトンの主要教説
プラトンの実践哲学
魂のセラピーとしての自然についての考察
プラトンと善き生
後世への影響

 

プラトン
B.C.427 - B.C.347
ミヒャエル・エルラー
1953 -
三嶋輝夫
1949 -
田中伸司
1960 - 
高橋雅人
1966 - 
茶谷直人
1972 -