because my life is shaky.
それは私の人生が震えているから。
ジョナス・メカス(1922-2019)はリトアニア出身の映像作家で詩人。反ナチス運動を行ない、強制収容所に入れられた後に、アメリカへ亡命、ニューヨーク、ブルックリンを拠点に活動した芸術家。吉増剛造が師と仰ぐ作家。
上に引いたジョナス・メカスの言葉はニューヨークでの映画上映会で観客の質問に答えたときのもの。メカスの映像作品は、つねに揺れ、画面が震えているという、その特徴をもつのはなぜかという質問に対する答え。作品を読み、人物像の紹介がされたあと、最後のエピソードのように添えられたメカスの言葉で、なんだかファンになった。私は映像方面には疎いけれど、詩や散文作品であればいつくかアクセスする方法も知っているので、他の作品にも手を伸ばしてみたい。
本書は「牧歌」という幼年時代を回想的に詠った田園詩と、一行に基本的に単語ひとつだけを配置した前衛的な作品「森の中」の組み合わせで構成されている。元の言語はリトアニア語。日本語訳があることがとても貴重だ。
「牧歌」と「森の中」では、中年以降の精神的世界を詠った「森の中」のほうにより惹きつけられた。
そして
私も
人生の
道のりの
なかばを
過ぎて、暗い
森の中へ
入って
行った、
とはじまる「森の中」はダンテの『神曲』を思わせるつくりになっているが、そこにはヴェルギリウスもベアトリーチェも存在せず、出てくるのは作家の人生を振り回した没落の過程にあるヨーロッパで、そこには慰安も昇華も回復もない。厳しい現実と先行きが暗示されるだけだが、そこを耐え忍ぶ思索と言語行為のあり様には心揺さぶられるものがある。
むなしく
事物
に
触れながら
触れながら
そして
凭れながら――
冷たい
視線で
かれらは
突き刺す
かれらは
突き刺す
そして
開かれぬ
まま
押し黙った
ままで
いる、
存在の
共謀の中で。
くずおれそうでいながら刻みつづけ押しとどまる内面の言葉。「それは私の人生が震えているから」と言えるのは、まだ選択の余地をさがしもとめている時間のなかに生きているからだと思った。
ジョナス・メカス
1922 - 2019
村田郁夫
1938 -
参考: