読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

西郷信綱+永積安明+広末保『日本文学の古典 第二版』(岩波新書 1966)

西郷信綱、永積安明、広末保の三人の日本文学者が各専門時代ごとに凝縮された論考を展開している見事な解説書。読み応えがあり贅沢。

日本古代文学専攻の西郷信綱古事記から女手の日記文学まで、日本中世文学専攻の永積安明が今昔物語の説話物語の世界から方丈記徒然草の隠者の随想文学まで、日本近世文学専攻の広末保が芭蕉俳諧から浄瑠璃・歌舞伎の台本までをそれぞれ担当している。古典の概説というよりも各時代の文芸作品が生まれでた必然性と時代的な制約からくる限界をあぶりだすような叙述が三者ともにされているところが一冊の書籍としての統一感を与えている。それ自体読み応えがあり、各古典を読む指針をも与えてくれるアタリの日本古典導入書。

分析的享受が進められるならば、問題意識によって過去を現代に拉し来るような読みかたがもっと前面におし出されて来るだろう。さきに古典の永遠性という題目にふれたが、これを過去への回帰のいいわけに使うべきでないことむろんである。永遠性にもかかわらず、われわれは究極的には古典と訣別しなければならないはずである。それは所詮、われわれの生きる現代の文学ではないからだ。というより、この訣別によって始めて、古典を現代の場に拉し来り、生きてはたらく伝統としてそれを定着させることが可能となるのではあるまいか。
(「古典をどう読むか」西郷信綱 p199 )

厳しめの物言いではあるが、古典への誘惑の素振りにはとても惹かれるものがある。「生きてはたらく伝統」を定着させる培地としての読むことの可能性に目を向けさせられたら、その線に沿って連れ去られてみようかという気も起こってくる。

www.iwanami.co.jp

目次:
一 神話と叙事詩
二 万葉集
三 源氏物語
四 女の文学
五 説話の世界
六 平家物語
七 能と狂言
八 隠者の文学
九 芭蕉俳諧
十 西鶴と戯作者
十一 近松の悲劇
十二 歌舞伎
古典をどう読むか

西郷信綱
1916 - 2008
永積安明
1908 - 1995
広末保
1919 - 1993

参考:

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com