『記号論のたのしみ』『テクストの読み方と教え方』へ続く三部作の第一作。
基本的には文学における構造主義の運動の歴史的展開を担った研究者とその代表的著作の紹介で、丁寧な読書案内といった趣きが強い。実践的入門書というよりも文学における構造主義のマッピングと考えておいた方がよい。
ソシュール、ヤーコブソンなどの言語学・詩学から出発し、ロシア・フォルマリズムを経て、バルト、トドロフ、ジュネットにいたる理論家たちのなかで、実際の創作活動を批評とともに行った詩人や小説家の実践の諸相をちりばめ、また並行して思考された哲学的営為などにもからめて紹介しているところは新鮮であり、好感が持てる。
ジョイスの初期の作品と後期の作品にみられる極端な変化は、彼独自の文体の実験の結果というよりも、世界そのものと、そのなかの人間の位置についての定義の根本的な見直しによるものである。この再定義は、グレゴリー・ベイトソンの『精神の生態学』という最近の評論集に手際よく、また力強くまとめられている。
(6「構造主義の想像力」B ユリシーズ ――構造主義的視覚 より)
ただ、構造主義を受けてから先の実存主義や精神分析ほかの展開までを見ようとすると構造主義自体の理解さえままならないものになる可能性が高く、本書の使い方としては、バルト、トドロフ、ジュネットなど実際にテクストの構造分析を行った研究への助走あるいは準備もしくは選択の機会の範囲にとどめておいた方が無難かもしれない。
【付箋箇所】
30, 48, 68, 92, 103, 125, 135, 148, 149, 165, 179, 183, 194, 221, 225, 232, 257, 276, 291, 294, 299
目次:
1 構造主義とは何か
2 言語学から詩学へ
3 形式の単純化
4 フィクションの構造主義詩学に向けて
5 文学テクストの構造分析
6 構造主義の想像力
ロバート・スコールズ
1929 - 2016