読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

監修:桝田倫広、鈴木俊晴『ゲルハルト・リヒター』(青幻舎 2022)

生誕90年、画業60周年記念、現存する世界最高峰の画家ゲルハルト・リヒターの展覧会の公式図録。

写真を素材として使用した具象画と色彩と筆触との組み合わせから構成された抽象画、そしてガラスや鏡を用いた作品、約140点を収録し、研究者によるエッセイも多数収められている。

絵の具の美しさと禍々しさが同時に感じられる作品はリヒター独自のもので、絵画のひとつの終焉を見ているような感覚にもなる。

フランシス・ベイコンの絵が外傷性のショックであるとすると、ゲルハルト・リヒターの絵は神経性のショックであるように思う。

本図録で特に力を入れて紹介されているのは2014年の制作された連作「ビルケナウ」で、特に第2作は写真をベースにした具象表現から何度も絵の具で塗りつぶされて最終型の抽象表現になるまでの経過を8枚の図版で追っている。アウシュビッツ強制収容所で撮影された写真を基に描きはじめた作品は、途中で描くことの困難に突き当たり、塗りつぶされて、もとに撮影されていたものが全く判別できない抽象画に着地した。リヒターならではの作品形成で、その過程自体にリヒターの創作活動の多くの側面が込められているところが見て取れる。また作成過程自体が作品となっているところも興味深い。

美しいが心がざわざわして忘れがたい印象を残す芸術家の作品集である。

 

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ゲルハルト・リヒター
1932 - 

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