読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジョルジョ・アガンベン『例外状態』(原著 2003, 訳:上村忠男+中村勝己 未来社 2007)

第二次世界大戦期の独裁国家誕生以降、政治的には世界的に例外状態あるいは緊急事態がつづいていることを指摘して、行政の執行権力の拡大による法の力に関わる危うさの増大を考察した濃密な一冊。法学に疎いものにはなかなか敷居が高いが、現在においても継続的かつ広範に宣伝喚起されている世界的例外状態のなかに生きる私たちにとって何かしら響くものを持った著作であることは間違いない。

法による権利保護から一方的に外され剥き出しの生を生きるほかなくなる状態にいつ陥ってしまうか分からない世界的内戦の状態ということが示されるなか、カール・シュミットヴァルター・ベンヤミンの間で交わされた相互思想への応答に関しての解析がスリリングに展開されている。ベンヤミンの徒であるアガンベンは、法の力の維持を固く守るシュミットの姿勢に対して、法の力が昇華されたベンヤミンの純粋言語・純粋暴力・純粋法による来るべき共同体を対置するのだが、その共同体にいたる道筋は本書においては十分には展開されていない。まずは状況についての認識を高めるための著作と考ええたほうが素直に読めるのではないかと思う。
※第4章「空白をめぐる巨人族の戦い」の終わりで、原始キリスト教のメシアニズムとマルクス主義共産主義成立後の世界で法にないが生じるのかという問いかけと、ベンヤミンカフカが示した無活動の法の姿がコンパクトに提示されていて、とても興味深いのだが、こちらも本書だけでは物足りないというかすっきりとはのみ込みづらい。

※本書は《ホモ・サケル》シリーズのⅡ-1、三冊目の著作。ほかの著作と組み合わせると違った感想になるかもしれない。

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【目次】
第1章 統治のパラダイムとしての例外状態
第2章 法律‐の‐力
第3章 ユースティティウム
第4章 空白をめぐる巨人族の戦い
第5章 祝祭・服喪・アノミー
第6章 権威と権限

訳者解説 例外状態をめぐって──シュミット、ベンヤミンアガンベン 上村忠男

 

【付箋箇所】
22, 39, 63, 82, 102, 108, 109, 115, 117, 126, 134, 146,169, 173, 175, 178, 180, 181, 182, 183

ジョルジョ・アガンベン
1942 - 

ja.wikipedia.org

上村忠男
1941 - 

ja.wikipedia.org

中村勝
1963 -