『学識ある無知について』(1440)の中世ドイツの哲学者・神学者であるクザーヌスの最晩年の著作。
日本では一休宗純(1394-1481)が同世代を生きていた。
注視の渾沌のなかで分析的思考を超えた無限の存在としての神を言語の限界とともに明らかにしようと勉める姿勢に特色がある。
思想的にはマイスター・エックハルト(1260-1328)の言葉の意味の解体に大きな影響を受けたといわれている。
あらゆる定義を超えた無限なる神を「非他なるもの」、すなわちそのほかではないあるもの、外部なきものとして、限定を避けつつ言語の限界において逆説的に規定しようとしている、アクロバティックな作品。疑問に対する応答というかたちをとる対話篇として構成されているところが読み手の理解にとっては幸いしている。基本的にニコラウスの発言に焦点を当てて、受容の可否を考えればよいように構成されている。なお、クザーヌスは存在の無限と言語表現の限界に向き合っているので、その思想を否定しようとすることは容易な技ではないと知ることになる。
言語を基盤とする認識と表現の、ひとつの限界としての作品。
読み手自身が精神の危機にひとりで向かうことなく、精神の限界近くまで案内をしてくれる歴史的遺産といえる古典作品であるだろう。
訳者松山康国の解説による西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」の概念や、三浦梅園の「反観合一」の概念への参照喚起も示唆に富む。
【付箋箇所】
9, 16, 28, 36, 41, 62, 79, 91, 100, 106, 110, 112, 143, 175, 180, 183, 186, 195, 202
ニコラウス・クザーヌス
1401 - 1464