読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「歌麿の線画美人」( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

歌麿の線画美人

それを線の美だといふのは余りに平凡、
だが線は古くて、霊化して香気となつて、
(この香気こそ生死を翺翔して永久にはいつた霊だ、)
夢の手細工、糸遊(かげろふ)のやうに、
自由に浮動している………
歌麿の美人は流れる微風の美しさであらう。
その線に恋愛の息吹が通つてゐて、
わたしの心を包み、私は遂に幸(しあはせ)な捕虜になつて仕舞うふ。
官能的だつて、人にはさう見えるかも知れない、
だが、この官能的なことが恋愛の言葉に聖化してゐる。
今日私は彼女と共に、静かな夕の薄暮に座る、
そして彼女が霧散しさうな気がしてならない。


( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.033