読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

プラトン『ソピステス ―〈あるもの〉(有)について―』『ポリティコス(政治家) ―王者の統治について―』(岩波書店 プラトン全集3 1976)

パルメニデスやゼノンに連なるエレア派の論理学を学んだであろう「エレアからの客人」を対話の主人に据えたプラトンの後期対話篇2篇。ソクラテスは対話導入部にほんの少し顔を出すだけで、後期プラトンの思想を代弁する「エレアからの客人」が、「分割法(二分割法, ディアイレシス)」と呼ばれる二分割法による論究の方法を用いて、ソフィストとは何者か、すぐれた政治家とはどういったものかということを、追及していく。『ポリティコス(政治家)』は『国家』でも語られている哲人王の優位性が論証され、『ソピステス』ではソフィストの欺瞞性や偽物性が明らかにされているのだが、結論自体よりも、その大きく迂回しながら最終結論にいたるまでの綿密な論考の動きを体感するのが、これら対話篇の醍醐味である。とくに『ソピステス』の哲学における最重要五類(五つの形相・イデア)として「有」「異」「同」「動」「静」を挙げ、イデアの分有という関係性を導入することで「非有〈あらぬもの〉」があることを導きだしていく部分は、現代思想にもよく取り上げられる論考であり、読み応えがある。ただ、本文を一度だけ読んで素直に理解できるかというと、なかなかそうはいかない。どこか煙に巻かれたような印象も持ってしまいがちだが、そこはなんどか読んで慣れるようにするか、ほかの解説書や解説文とあわせ読んで理解するようにするしかない。そうした意味では、『ソピステス』の訳者である藤沢令夫の巻末解説文は、限られたページ数でコンパクトにまとめあげられていて、さすがプロフェッショナルの仕事と感心させられた。
今回読んだ『ソピステス』と先日読んだ『ティマイオス』は、プラトンの対話篇ではぜひ手許に置いておきたいと思わせるもので、どこかの出版社で刊行してもらえるとありがたい。慣れ親しむためには、やはり手許に置いておかないと無理だ。

【付箋箇所】

藤沢令夫訳『ソピステス ―〈あるもの〉(有)について―』
236E, 239A, 243A, 248A, 249D, 256A, 258D, 
解説:
397, 400, 404, 406, 407, 409, 417, 418, 422, 425, 426

水野有庸訳『ポリティコス(政治家) ―王者の統治について―』
266D, 276D, 283B, 286A, 295A, 299E, 300E, 301E, 303B, 307E, 310C

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プラトン
紀元前427 - 紀元前347
藤沢令夫
1925 - 2004
水野有庸
1928 - 2008