読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

フランチェスコ・ヴァルカノーヴェル『イタリア・ルネサンスの巨匠たち 〈23〉 カルパッチョ』(原著 1989, 東京書籍 1995)

日本でカルパッチョの作品をまとめてみることのできる貴重な作品集。図版数は76。

個別の代表作を偏りなく冷静に取り上げて紹介しているのがいちばんの妙味。

初期作品から晩年にいたるまで、大きな画面の隅々にまで神経のいきわたった揺るぎない緊張感がみられる画面構成は驚くべきもので、古典的調和のなかで個物が躍動している様子は、紹介文で比較対象として挙げられてくる人々の作品とも一線を画しており、未知の領域を示しているような斬新さがある。

なんでもないような昼下がりの情景のとりかえようのない絶妙な配合と色彩感覚。

個々の存在が個別に最高のありようをさりげなく主張している。緊張した待機の空間。

特定の人物や事物ではなく、それぞれの場面のどこからでも世界が変容する可能性を秘めていることを主張している緊密な絵画の世界は、カルパッチョ独特のものであるように思う。

穏やかな画面構成のなかに配置されている個物の生命感。

大きな画面の繊細な表現に長い時間目を奪われる作品集だ。

 

ヴィットーレ・カルパッチョ
1465? - 1525?