アビ・ヴァールブルクはドイツの美術史家でイコノロジー(図像解釈学)の創始者。パノフスキーに影響を与え、カッシーラーとも交流が深かった(三人ともにユダヤ系ドイツ人)。
以前から気にかかっていた人物であったが、ジョルジョ・アガンベンの著作でよく参照されていることがきっかけとなり、実際の著作を手に取ってみることとなった。未完に終わった晩年の図像解釈学の集大成的研究「ムネモシュネ・アトラス」が本命ではあったが、予備知識がほとんどない状態で向かい合っても入っていけない惧れがあったので、テーマも執筆発表時期もいろいろなものである講演・書簡・エッセイを集成した著作集別巻から様子を探ることにした。
刺激を受けたのは以下のような論点
- 点と線という抽象化の道具
- 思考空間の創造
- 社会的記憶機能
- 怪物から天球へ、恐怖から観想へ
- 現実世界・日常世界とその背景
- 形式と制約条件
- 激情と熟慮
- 演劇的要素が様式形成に与える影響
- 人間が行う方位・位置確認
- 芸術と倫理
感覚的に荒々しく禍々しい原初的なものを、変形し再生し、世俗的世界に取り込んでいこうとする様式形成の力学を、古代から中世、ルネサンス期から近代まで、情念定型の表れとしての身振りの受容と変容を追うことで明らかにしようと欲していたアビ・ヴァールブルクの姿勢が読みすすめるごとに感じ取れる一冊であった。
【目次】
第1章 占星術と古代世界
東から西へと遍歴する「異邦の天球」の恒星天界図
惑星像の南から北への遍歴とそのイタリアへの帰還
ウルリヒ・フォン・ヴィラモヴィッツ = メッレンドルフ宛書簡88
カール・ラインハルトによるオウィディウスの『変身物語』
怪物から天球へ
第2章 フィレンツェの美術と文化
新たに発見されたアンドレア・デル・カスターニョのフレスコ
フィレンツェのニンフ
フィレンツェの現実と古代風の理想主義
ルネサンスの祝祭からのイメージ
ギルランダイオ工房におけるローマ的古代
第3章 イコノロジー
美術史学の諸傾向
ブルクハルト演習最終日
フィレンツェ美術史研究所開所記念の挨拶
レンブラントの時代におけるイタリア的古代
マネの《草上の昼食》
第4章 ハンブルク大学と文化科学図書館
自治体の責務と公共的精神政治学
課題は中間にある
武器庫から実験室へ
なぜハンブルクは哲学者カッシーラーを失ってはならないのか
ヴァールブルク文化科学図書館理事会のまえに
第5章 同時代への文化政治学的発言
アメリカのチャッブ・ブック
フォルクスハイムでの画像展示会
ハンブルク市庁舎大広間の壁画
紋章学の専門蔵書
ローベルト・ミュンツェル追悼
註
解題 ヴァールブルクの占星術研究 伊藤博明
解題 ヴァールブルクと文化科学図書館 加藤哲弘
あとがき
【付箋箇所】
10, 94, 117, 125, 152, 225, 255, 262, 302, 336, 349, 371
アビ・ヴァールブルク
1866 - 1929
伊藤博明
1955 -
加藤哲弘
1953 -