読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「沈黙の血汐序詩」(『沈黙の血汐』 1922 より )

沈黙の血汐序詩


右には広々した灰色の沙漠、
左には錐のやうに尖つた雪の峰、
風はその間を無遠慮に吹きすさんで、
木の葉を落とした樹木の指先から沈黙の赤い血が滴る……
君はかういふ場所を想像したことがありますか。
私は今この沙漠と雪の山との中間に居ります。
ここは世界を失つた人間が追放される所かも知れません。
私は全身の呼吸を凝らして、
ぢつと蹲(しやが)み、
沈黙の血汐がぽたりぽたりと樹木から落ちて
詩の宝玉と変じ、
夕日をうけて燦爛と輝くのを見詰めてゐます。

(『沈黙の血汐』 1922 より )

 

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.040