読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

山田克哉『 E=mc2のからくり エネルギーと質量はなぜ「等しい」のか』(講談社ブルーバックス 2018)

恥ずかしながら「光子はエネルギーを持っているのに質量がゼロとはどういうこと?」と理系世界では常識レベルかも知れないことをずっと疑念に思ってきたのだが、本書ではじめて腑に落ちた。「電子対創生」。いままで読んだことはあったかも知れない。でも、今回はじめて記憶に残った。アインシュタインはもちろんだけど、凄いな、ディラック陽電子反物質

電磁波は物質ではないので、質量を持っていません。一方、物質粒子である電子と陽電子は質量をもっています。したがって、対消滅は、物質が100%完全に消滅して、純粋なエネルギー(光子)に変換されることを意味しています。すなわち「物質のエネルギー化」に相当します。
(中略)
これとまったく逆の現象が、「電子対創生」です。
大きなエネルギーをもつガンマ線は電磁波(光)の一種なので、粒子(光子)としてもふるまえます。その際、大きなエネルギーを持つ光子が100%完全に消滅して、その消滅点に「電子―陽電子の対(ペア)」が現れる現象が起こることがあるのです。光子1個が消滅して、物質が現れる「エネルギーの物質化」です。
質量ゼロの光子が質量をもつ物質粒子に変わるこの現象が起こるためには、光子は少なくとも、誕生する二つの電子(電子―陽電子の対)の静止エネルギー(2×mc2)よりも大きいエネルギーをもっている必要があります。
(第5章「E=mc2のからくり」p201-203)

情報が知識になるためには必要最低限の組み合わせを塊として用意していただく必要がある。著者の山田克哉氏は「読者に必ず理解してもらう」ことを信念として執筆にのぞむ科学者のようで、きっちりと不足なしに情報一式をいっぺんに提供してくれている。E=mc2の右辺から左辺へ向かう現象と、左辺から右辺へ向かう現象を、これほど明瞭簡潔にまとめ教えてくれた人はいなかった。消化酵素なしの過剰摂取をした場合のような、消化不良の時におこる読後の変なモヤモヤ感は今回まったく感じない。また、現在解決していない問題(電子や陽子がスピンしている理由、ダークマターダークエネルギーなどなど)についてはそれを明示してくれているのも、余計な疑念を持たずに済み大変ありがたい。いい作者に出会ったときの高揚感を、いま感じている。

 

目次:

第1章 物理学のからくり――「自然現象を司る法則」の発見
第2章 エネルギーのからくり――物体に「変化」を生み出す源
第3章 力と場のからくり――真空を伝わる電磁力と重力のふしぎ
第4章 「人間が感知できない世界」のからくり――“秘められた物理法則”と光子のふしぎ
第5章 E=mc2のからくり――エネルギーと質量はなぜ「等しい」のか
第6章 「真空のエネルギー」のからくり――E=mc2と「場のゆらぎ」のふしぎな関係

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山田克哉
1940 -