読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「沈黙の揺籃」(『夏雲』1906 より)

沈黙の揺籃

 沈黙の揺籃から私の愛する詩人の歌が聞える、平和と記憶の無言の歌、年を知らない影の歌、永劫の霧の歌が聞える。私の愛する詩人の新しい無言の音律、春の夕の甘やかな無終の歌、睡眠の国を照らす月のやうな愛と涙の歌を私は聞く。
 沈黙の揺籃から聞える詩人の歌は、過ぎゆく雲のやうな不安と夢で私の胸を満たすであらう。詩人の歌は墓場の下から上潮(あげしお)のやうに私の耳に聞えて来る………墓場は大きな沈黙の揺籃だ。


(『夏雲』1906 より)

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.032