読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ショーン・ジェリッシュ『スマートマシンはこうして思考する』(原書 2018, 依田光江訳 みすず書房 2020)AI時代に発想を柔らかくするための一冊

著者ショーン・ジェリッシュは元Google機械学習&データサイエンスチームのエンジニアリング・マネージャ。技術的なことをいくらでも語れるだろうに、本書では歴史的な各プロジェクトを支えた技術についてではなく、暗礁に乗り上げた際にブレイクスルーを齎した戦略に重点を置いて、オートマトン(自動機械)やスマートマシン(知的な機械)を語っている。

本書全体をつうじ、華やかなブレイクスルーだけでなく、それを裏で支えたものの物語にも目を向けたい。大勢の開発者の苦労はもちろん、テクノロジーや技術的な方法論を超えたところにも成否を分ける要素があることを知ってほしい。たとえば、本書に繰り返し登場する、成果を競う研究者たちのコミュニティもその要素の1つで、競争が触媒となって、偉大な進歩を後押しした。
(第1章「オートマトンの秘密」 p13 )

「成果を競う」ように活動してしまうのは人間の常であり、そこから勝者と敗者が分かれてしまうのも致し方ないところがある。しかし、総体として利便性が高く快適度の増す方向に開発のゲームが進むようであってほしいし、社会全体の進む方向であってほしい。

本書で取りあげられた各開発チームの開発の過程は、純粋に楽しそうな雰囲気に満ちたもので、開発研究やものを創りだすことの良い側面を見せてくれた。仕事はどこかで楽しみながらやらないと進展が出て来ない。苦しいところばかりに目が向くと固まって冷え込む。


一行のコードで演算装置が動く。

一行の文章でニューロンが発火する。

日々一行一行の積み重ね。


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【付箋箇所】
12, 13, 45, 70, 72, 89, 97, 107, 108, 115, 116, 144, 158, 170, 182, 196, 215, 225, 231, 258, 278, 282, 288, 329, 336, 337

 

目次:
本書に寄せて (ケビン・スコット)

はじめに
第1章 オートマトンの秘密
第2章 自動運転車とグランド・チャレンジ
第3章 車線を外れない──自動運転車の認識技術
第4章 交差点で停止する──自動運転車の頭脳
第5章 ネットフリックスとレコメンデーション・エンジン
第6章 成功のカギはアンサンブル
第7章 コンピュータに報酬を与えて学習させる
第8章 ニューラルネットワークを使ってアタリのゲームに勝つ方法
第9章 人工ニューラルネットワークは世界をどう見ているか
第10章 深層ニューラルネットワークの奥にあるのは
第11章 聞く、話す、覚えるニューラルネットワーク
第12章 自然言語と『ジェパディ!』のクイズ問題を理解する
第13章 『ジェパディ!』の正解を掘り出す
第14章 力まかせ探索と優れた戦略の発見
第15章 名人級の囲碁の腕
第16章 リアルタイムAIと〈スタークラフト
第17章 50年後、さらにその先

解説(栗原聡)