読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

高木昌史『美術でよむ中世ヨーロッパの聖人と英雄の伝説』(三弥井書店 2020)

グリム兄弟や伝承文学などが専門のドイツ文学者高木昌史が文学と美術の両面から中世ヨーロッパの世界を案内する一冊。聖人や英雄伝説への入門あるいは再入門として伝説の概要とテキスト本文の引用がまず提示されたあと、その伝説に取材した視覚芸術家の作品を取り上げて、その画面に描かれた場面の内容と芸術家たちの表現の特徴について読み解きが行われている。中高あるいは大学の一般教養のどこかで一度は触れていることのある伝説についての紹介は復習のような感じでとくに新鮮味を感じることはないが、一通り有名どころを見通せるつくりになっているところに価値がある。伝説自体の紹介に比較すると、その伝説にインスパイアされて描かれた作品として紹介されているものは、意外なものが組み合わせられていて面白い。有名な画家の作品のなかでも代表作としては取り上げられることの少ないような作品が取り上げられていたり、また超有名作を見る場合でも中心から外れているところに描かれた人物に目を向けているなど、かなり刺激的な内容になっている。
オディロン・ルドンの聖セバスティアヌス、オスカー・ココシュカの聖女ヴェロニカ、マックス・エルンストの聖チェチーリア、ドミニク・アングルのパオロとフランチェスカ、ベルナール・ビュッフェの「死の海を渡る」ダンテとヴェルギリウスなどが印象的で、これをきっかけとして画家のほかの作品を更に見てみようという気にさせてくれる。
なかなかの良書。

www.miyaishoten.co.jp


目次:

第1部 聖者伝説
ヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』への案内
A 聖人 
 1 竜を退治した騎士(ゲオルギウス)
 2 矢を浴びた殉教者(セバスティアヌス)
 3 砂漠で誘惑された聖者(アントニウス)
 4 荒野の苦行者(ヒエロニムス)
 5 清貧の聖人(アッシジのフランチェスコ)
B 聖女 
 1 悔悛した女(マグダラのマリア)
 2 イエスの汗を拭った女(ヴェロニカ)
 3 音楽の守護者(チェチーリア)

第2部 英雄伝説
グリム兄弟の『ドイツ伝説集』への案内
 A アーサー王伝承圏(ケルト系)
 B ニーベルンゲン伝承圏(ゲルマン系)
 C フランク王国/十字軍

第3部 ダンテ『神曲
ダンテの『神曲』への案内
 1 地獄の門カロン(「地獄篇」第3歌)
 2 パオロとフランチェスカ(「地獄篇」第5歌)
 3 ダンテの小舟(「地獄篇」第8歌)
 4 ウゴリーノ伯(「地獄篇」第32―33歌)

高木昌史
1944 -