読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

イェルク・ツィンマーマン『フランシス・ベイコン《磔刑》 暴力的な現実にたいする新しい見方』(原著 1986, 訳:五十嵐蕗子+五十嵐賢一 三元社 シリーズ(作品とコンテクスト) 2006)

フランシス・ベイコンの代表作《磔刑》(1965年, ミュンヘン)から作家の全体像に迫る一冊。ひとつの作品に焦点を決めて作家の本質に迫っていく著作は刺激的で学習効率もよく、概説書や入門書の次に読むものとして貴重な位置を占めている。実際に接したところでは商品としての間口が広いとは言えないので、商売上一般的には限定された顧客層向けの隙間商品で、気に入ってもらえたら同じシリーズ作品も認めたうえで読んてもらいたいというような意志が感じ取れる。

シリーズ本体定価は2200円。

基本的には、学校を含めた公共の図書館から評価されて広く長く読者を待つスタイルの本ではないかと思う。
※私も図書館からの利用者のひとりだが、公共の図書館に所蔵されている著作が人畜無害のものとばかりは言えず、かえって埋もれているような状態で生きながらえている不穏な熱源である可能性も高確率で存在している。

「ここに示されているのは、むしろ宗教と人間性の終焉である」

しかしながらそれを示す対象は人間であり人間性でしかないということも創り手であるフランシス・ベイコンは熟知しているということをも教えてくれる一冊となっている。

 

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【目次】
第1章 ぼくは何も語らない
第2章 きわめて統一のとれた明快な背景
第3章 すばらしく便利な架台
第4章 筆のひと掃きの行方
第5章 生か死かは、投げられたコインの裏表3
第6章 腕のまわりの赤
第7章 口の形はどのように変質してゆくのか
第8章 何かをするでもなく
第9章 絶対絵画へのアプローチ
第10章 人間の行動のひと幕
第11章 強調され、かつ孤立した位置
第12章 ストーリーを語らずに多くの人物を描く
第13章 くりかえし新しく創出されるリアリズム
訳者解説
(表題作品のカラー折込図版を巻末に収録)


【付箋箇所】
2, 16, 60, 72, 106

フランシス・ベーコン
1909 - 1992

ja.wikipedia.org

イェルク・ツィンマーマン
1946 - 

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