読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

岩崎宗治編訳『ペトラルカ恋愛詩選』とダンテの詩作

ダンテは9歳の時に同い年のベアトリーチェに出会い、以後の美と聖なるものの方向性が決定した。22歳のペトラルカは1327年4月6日、永遠の愛の対象となるラウラに出会い、以後の詩作の核となるものが刻印された。ダンテとペトラルカは愛すべき対象を聖なるものに置き換えて、疑いを持たないほどの情動を生涯持ちつづけ、それぞれ『神曲』と『わが秘密』という傑作に昇華させた。変態の妄想とほとんど区別がつかない禁欲的愛の世界と、政治思想や宗教的世界観との結びつきが、聖なる世界の象徴体系を独自の生々しさを生み出している。詩集『カンツォニエーレ』をベースに編集された、水声社から刊行されている岩崎宗治編訳『ペトラルカ恋愛詩選』は、ペトラルカの思想世界の根源的な部分を見せてくれる一冊となっている。ダンテで言えば『新生』のような位置の著作だろうか。ラテン人の想いの激しさが良い方向に出た古典的詩作。

 

平和でもないが戦っているわけでもない。

不安と希望に揺れ、わたしは燃えつつ凍えている。

天空高く飛翔しつつ、地に身を横たえ、

虚空を掴み、世界を抱く。

 

わたしを収監している者は獄舎を閉じもせず開きもせず、

拘束するわけでもなく放免するわけでもない。

<愛(アムール)>は殺しもせず軛を解いてもくれず、

生かさず殺さず、苦境から解放してもくれない。

(詩集『カンツォニエーレ』134番より p84-85 )

 

思考と詩作を強いる運命的な愛。憧れもするが、体質と年齢というものがある。もう緊張感ある禁欲の世界に現実世界で向き合う可能性も現実性もない。

 

blog 水声社 » Blog Archive » 11月の新刊:ペトラルカ恋愛詩選――『カンツォニエーレ――俗事詩片』から

岩崎宗治

1929 - 

ペトラルカ

1304 - 1374

ダンテ

1265 - 1321