永福門院の全作品387首と玉葉・風雅収録全作品の評釈と伝記からなる一冊。永福門院の全貌に触れることができる。歌ばかりでなく、伏見院亡き後の北朝持明院統の精神的支柱でもあった永福門院を伝記で知ることで、南北朝時代にも関心を持たせてくれる。歴史的な出来事に、京極派主導の『玉葉和歌集』『風雅和歌集』と二条派主導の勅撰集での文化的な相剋も重ね合わせてみることができそうだ。
かりそめに心の宿となれる身をあるものがほになに思ふらむ
かくしてぞ昨日も暮れし山のはの入日の後に鐘の声々
わすられぬ昔がたりもおしこめてつひにさてやのそれぞかなしき
どちらかといえばままならぬことの多い生涯にあって、修辞に囚われることなく心の動きを正確に詠いあげることを旨とした京極派の歌風を、もっともよく、もっとも嫋やかで美しく体現した、稀有な歌人であった。静かにそしてしっかりとものを思いものを見つめた時間の貴さを感じさせてくれる歌の数々は、読み返すごとに味わいが深まっていくようである。
花の上にしばし映ろふ夕づく日入るともなしに影消えにけり
目次:
第一部 生涯
Ⅰ 娘の時代
Ⅱ 妻の時代
Ⅲ 母の時代
Ⅳ 最晩年
Ⅴ 崩御ののち
第二部 玉葉・風雅作品評釈
第三部 永福門院全作品
附 系図年譜
永福門院
1271 - 1342
岩佐美代子
1926 - 2020