読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『柄谷行人『力と交換様式』を読む』(文春新書 2023)

絶望の先にある希望とうまくいかなくても耐えることの必要を説いたのが『力と交換様式』という著作だという柄谷行人の基本的考えが繰り返しあらわれるのが印象的な本。

柄谷行人自身をはじめとして、多くの共同執筆者に共通しているのは、本を繰り返し読み丹念に考えているところ。物事を明晰に見て論じるためには、広い視野と深い考察が必要だということが、突きつけられている。柄谷行人は60年もマルクスを読んで思索を展開していながら、まったく教条的になっていないところが魅力で、なお新しい著作も構想中であるというから今後の活動にも当然のことながら期待してしまう。

本書はマルクスとカントの研究を軸にしてきた柄谷行人の思索をインタビューや講演が中心の読みやすいかたちで提供しているところに特徴がある。基本的に哲学・思想について語られているのだが、文芸批評家の側面が近年改めて強まってきていることを感じさせる発言もしばしば見て取れるところが、旧来の読者としてはドキドキする。第二部の「文学という妖怪」という章では、交換様式と文学のスタイルが関連付けられているところが刺激的で、交換様式Aの互酬(贈与と返礼)の高次元での回復とされる交換様式Dは、ポリフォニー(多声性)やカーニバル的世界感覚を持つ「ルネサンス的な文学」と結び付けられている。過剰さが飛び交うユートピアともディストピアともつかぬ強い強度を持った「ルネサンス的な文学」の世界から、交換様式Dが基調となる世界システムXのひとつのイメージが与えられたようにも感じ取れた。

近代文学」とは交換様式Cの優位によって成立した世界である。そして文学はDとして回帰する。

books.bunshun.jp

【目次】
Ⅰ:著者と読み解く『力と交換様式』
・「柄谷行人」ができるまで
・『力と交換様式』をめぐって 柄谷行人×國分功一郎×斎藤幸平
・モース・ホッブズマルクス

Ⅱ:「思考の深み」へ 
・可能性としてのアソシエーション、交換様式論の射程
・交換様式と「マルクスその可能性の中心」
・文学という妖怪

Ⅲ:柄谷行人『力と交換様式』を読む
・『力と交換様式』を読む
大澤真幸鹿島茂佐藤優、東畑開人、渡邊英理

 

柄谷行人
1941 -