ディオゲネスから現代まで、シニシズムの原初的形態から中世、近世、現代までの様相と社会的な意味を概観できる著作。多くの言語に翻訳されている著作で、目次を見ただけでもなかなか本格的で読みごたえのある著述であることは予想もでき、実際に最後まで興味を持続させてくれるものではあるのだが、この日本語訳は直訳調というか自動翻訳に近い機械的なもので、著者が文章に込めたであろうニュアンスが読み取りずらいのが難点。もったいないとは思いつつ、それでも伝わってくる情報や考えについては逆に信用が置けたりもする。
公序良俗が強いる型にはまった生活や言動に対して極限的な清貧の実践とともに根源的な自由からの挑発的反抗を偽悪的に示し攻撃的に振る舞った古代シニック派の人々から、次第に洗練され様式化され美的かつ権威的に主張する側面が強まっていき、現代においては体制に反抗することへの失望にまで拡散されつつ縮減されてしまったシニシズムと逆に身体を傷つけるまでに超過激化した攻撃的シニシズムに分離している状況を描き出している。
本署は、慣習に縛られることのない「別の生活」への希求として噴出するシニシズムの行動や活動の歴史と現在を肯定的に未来に向けて開いていこうとする書物であると思う。
ちなみに、ディオゲネスに関する記述では、一休宗純のことを思い出していた。
強烈な否定の根底にある、より根源的で肯定的な何かに触れることが、シニシズムと見られる思想傾向の目指しているところではないかと思った。
【目次】
第1章 はじめに:逸脱に関する問題
三つの問題
第2章 あらゆる規律を拒否:古代シニシズムとFearless Speech(臆せず語る)
哲学としての立場
臆せず語る
窮乏化
肉体を重んじる教育者
第3章 貨幣の価値を貶める:常軌を逸した古代シニシズム
攻撃的な教え
貨幣の価値を変える
洗練性
排便行為による批判
恥,屈辱,笑い
手に負えない弟子たち
第4章 暴徒への懸念:古代と中世の理想化
理想化されたシニック派
エピクテトス
ルシアン
ユリアヌス
キリスト教の禁欲主義者と聖なる愚者
愚者シメオン
第5章 樽を空ける:近世の不満分子
ラブレー
近世の不満分子
第6章 太陽を解き放つ:啓発された哲学者と放蕩者
啓蒙主義のシニック派
ルソー
ディドロ
サド
第7章 終末の時代を生きる:現代シニックの多面性
シニシズムへの批判
極左勢力の不満
後期ソ連のシニシズム
スローターダイクの批判
反乱の可能性
ニーチェ,ニヒリズム,不完全なシニック派
スローターダイクと排泄行為の規範
第8章 終わりに:シニシズムの必然性
【付箋箇所(ニュートンプレス版)】
10, 21, 35, 71, 100, 109, 119, 123, 125, 137, 145, 163, 164, 176, 179, 182, 192, 206, 208