読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

城田真琴『ChatGPT資本主義』(東洋経済新報社 2023)

新しい技術に対しては、基本的に警戒しながら回避する方法はあるのだろうかと考えてしまう超保守的な態度を取るのが常である。それゆえ世間の動向に対しては常に受け身の態勢で、一、二年様子見することが多いのではあるが、ChatGPTのリリースはそんな構えを簡単に打ち砕いてくれた。

使うほかないサービスと言われて、できることなら使わないで済ませたいと思いつつも、もう仕事の現場で相手側が使ってきている。
業務上の金銭的な契約がある以上、少なくとも相手と同等以上の反応は示しておかねばならないから、自分なりの感覚を得るために使いはじめてみた。

すると、人工知能が現時点で到達している知的領域の広さと応答の品質と生産性の高さとで圧倒される現実が待っていた。

囲碁や将棋のプロフェッショナルがAIに負ける世界の現実が、いま、事務的な労働の世界に起こってきているということを自分のネット環境で体感でき、同様の体験をした人々が、効率的でいままでにない新たな労働のあり方が求め迫まられている局面を認識しかつ支持してしまっていることから逃れられないという現実が待っていた。気が付いた時には、自分の労働とその成果の価値切り下げがオープンに行われ、今後もその傾向は強まりこそすれなくなりはしないところに来てしまっているようだった。

生成AIによって出力された情報には正しくないものが含まれていて、最終的には人間の判断がまだまだ必要であるとはいえ、問いや要望に対しての応答はやはり人間離れしていて、同じ土俵で戦おうとする気持ちは一挙に失せた。いかにストレスなく利用していくか、利用者側は同じ人間であるので、そこで自分らしい価値を打ち出していくほかないのだろう。

本書は2023年9月時点までの生成AIの動向と幅広い業界で使用されている例を豊富に取り上げていて、その革新性と業務上のインパクトをよく伝えてくれている。後戻りできない技術的な環境が生まれたのだから、無視できる立場にいないのなら適応していくほかあるまいと考える下地を作ってくれた一冊。

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【目次】
第1章 チャットGPTとは何か?
第2章 拡張する生成AIの世界
第3章 生成AIの「しくみ」を理解する―プロンプトエンジニアリング
第4章 巨大テック企業の生成AI戦略
第5章 生成AIのビジネス活用戦略
第6章 生成AIで「消える」仕事
第7章 生成AIが社会に突きつける課題
第8章 生成AIはどこへ向かうのか


【付箋箇所】
35, 52,  56, 73, 141, 147, 163, 169, 195, 219, 222, 227, 229, 249, 255, 257