カラヴァッジョの専門家で、古今東西の美術作品に造詣が深く、同業者にも信頼されていることが文章からもうかがわれる著作で、紹介されている作家・作品も興味深いものばかりだが、2013年に一人娘であったお子様を失ってからの悲嘆と絶望のなか、自身が生きる世界の無意味さと対峙しながら書かれたということで、よりいっそう美術の力に思い至らせてくれるような稀有な著作となっている。死に近くありつづけている者の人間的な苦闘と叡智を、見も知らぬ一読者にも触れさせてくれる書物。宗教と美術の近さということにも目を向けさせるようにはたらいている。
作家ごとに見ると、バスキア、アイヴァゾフスキー、浦上玉堂、ベラスケスなどの作品が持つ力を、目利きならではの感受性とともに、学者の明晰さをもって端的に伝えてくれているところが新鮮。超有名どころと若干逸れた作家作品を国内国外混ぜ合わせて色々と触れられるところも魅力。
書籍全体としては、図版がすべて単一ページに収まっていて、発色もよく、収録作品全図が見やすく仕上がっているところも良い。
【目次】
第1章 名画の中の名画
第2章 美術鑑賞と美術館
第3章 描かれたモチーフ
第4章 日本美術の再評価
第5章 信仰と政治
第6章 死と鎮魂
【付箋箇所】
4, 49, 81, 110, 170-171
宮下規久朗
1963 -