読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

中野京子『異形のものたち 絵画のなかの「怪」を読む』(NHK出版新書 2021)

出版社側の謳い文句として「「怖い絵」シリーズ著者の新境地」とあるが、おそらくはページ数が足りないのだろう、章ごとにテーマを立ててそのなかで複数作品を論じるという体裁に、著者の独自性が薄められてしまっているような印象を持った。個々の作品の主題がかかえる背景とそれを発想源とした画家の思いに鋭く切り込んでいく著者ならではの語りの魅力が抑え込まれてしまい、穏当な作品紹介に終始してしまっているような物足りなさが付きまとう。取り上げられている作品も重複しているものが多くあるため新鮮さに欠ける一因ともなっている。

ただ、個々の作品鑑賞に当たって、自身の先行著作とは重複していない、切り口が鮮明なものが屡々顔を覗かせ、じんわりと絵画を見る奥深い楽しみを教えてくれているところは流石である。読者を放っておかないツボのようなものを心得ているのだろう。天使に性器はないが歯はあるだろうとかいった読者の想像力を刺激する言葉が各所に埋め込まれている。

www.nhk-book.co.jp

【目次】
第1章 人獣―私たちは何を恐れてきたのか
第2章 蛇―邪悪はいつでも傍にいる
第3章 悪魔と天使―善悪と美醜のかたち
第4章 キメラ―存在しえぬものを求めて
第5章 ただならぬ気配―不可視の恐怖
第6章 妖精・魔女―忘れられたものたち
第7章 魑魅魍魎―画家たちの歓び


中野京子

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