読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

木島俊介『美しき時禱書の世界  ヨーロッパ中世の四季』(中央公論社 1995)

西欧中世の装飾写本の代表的なものを解説付きで概観できる画集兼入門の書。13世紀から16世紀までの写本から101点を厳選し、レイアウトの割合としては基本的に図版4/5解説1/5で構成された書物。日本の鑑賞者限定の出版物でここまで丁寧に仕上げられて本体価格4660円というのは、経営的にはかなり頑張っていると感じ取れる。

装飾的な写本の仕事から、油彩画のリアリズムにつながっていくところが見て取れるとともに、リアリズムからまた二次元的な装飾の表現に重心を移していく西欧絵画の動向の一面を予期させるような構成にもなっているような感じがした。シャガールマティス、そのほかさまざまな近代油彩画の作家の絵を彷彿させる図版の数々は、それでも現代に生きるものの感覚とは常にズレがあって、見返すたびにちょっとドキドキする。

時禱書と名が付くものばかりでなく、多くの装飾写本から中世の分厚く含みの多い表現形式を図版中心に凝縮された解説文とともに紹介しているところが魅力的な一冊。


【目次】
時禱書と写本装飾
歓びの新春、恋愛の季節
仕事の夏、騎士たちの冒険
みのりの秋、小麦の播種
そして冬、祈りの時
写本装飾の華麗な世界
ベリー候ジャンと宮廷画家たち-謙遜か諷刺か-
ヨーロッパ中世の四季-写本装飾画に生き続けるロマン-

 

木島俊介
1939 - 2024

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