読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ベリー侯の豪華時禱書』(原著 1988, 著:レイモン・カザル、訳:木島俊介 中央公論社 1989)

フランス王シャルル5世の弟、ベリー侯ジャン1世(Jean Ier, 1340年11月30日 - 1416年3月15日)が生前最後に作らせた豪華装飾写本。完成はベリー公の死後で、制作にあたったランブール兄弟も没した後になる。

ヤン・ファン・エイクも携わった『ベリー公の美わしき時禱書』に比べると制作者集団にはまとまりがあるようで、作品としての一貫性を強く感じ取れる。歴史の中で喪失してしまった部分もなく高い完成度のまま複製でも享受できる。淡さと鮮烈さとが同居する画面に、鑑賞者は心のざわつきを感じずにはいられない。

空気遠近法以前の朦朧としたところのない装飾的な平面構成の力強さに戸惑いながら魅了されてしまう。作家の意図とは別にある時代の枠組みが現代を生きる者の感性に抵抗し刺激しつづけているような感覚を覚える。線と平面と色しかないのにある一時代の揺るぎないスタイルがあり、現在の造形感覚とは全く異なっているということは、かなりの驚きである。

 

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【目次】
カレンダー
占星学的人体
福音書抜粋
聖母への祈禱
楽園を追われるアダムとエヴァ
聖母への時禱
東方三博士(出会い・礼拝)
聖母マリヤのお潔め
悔悛詩篇
大連禱
十字架の時禱
聖霊の時禱
死者の聖務日課
地獄
週間の小聖務日課
ローマの図
受難の時禱
典礼暦年の時禱
『ベリー侯の豪華時禱書』の魅力(ウンベルト・エコ)

レイモン・カザル
1917-1985

木島俊介
1939 - 2024

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