読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

テレンス・J・セイノフスキー『ディープラーニング革命』(原書 2018 銅谷賢治 監訳 NEWTON PRESS 2019) 生体と機械のなかのアルゴリズム

 

ディープラーニング研究のパイオニアである著者が、自身と仲間たちの研究活動のエピソードとともに、ディープラーニングの開発の歴史と現在地を紹介する一冊。神経生理学とコンピューターサイエンスの融合しながらの発展の中心を歩んだ人々の姿に憧れを持ちつつディープラーニング領域の動向を概観する。生体の構造をモデルにコンピュータのアルゴリズムを摸倣創造していくセンスに学びを得る。

オーゲルの第二法則が言うとおり、「進化はあなたよりも賢い」のだ。
私たちの意識的知覚というのは氷山の一角のようなもので、脳の働きの大部分は省みることができない。私たちの行動を表現するのに「注意」や「意図」などの言葉が使われるが、これらのつかみどころのない概念によって、その背後にある脳のプロセスの複雑さが覆い隠されてしまう。直観的な日常心理学(folk psychology)に基づく人工知能は、期待はずれの結果しか生んでいない。私たちは見るのだが、どうやって見ているのかはわからない。私たちは思うのだが、「ゆえに我あり」と信じていても、その「思うこと」の背後にあるメカニズムは謎である。脳が実際にどのような仕組みで動いているのか明かされたとしても、人間生存上のメリットはない。オーゲルの第二法則が勝つのだ。
(第17章「自然は私たちよりも賢い」p280-281)

 レスリー・オーゲルの第二法則があるということは第一法則は必ずあるはずなのに、それが何かは著作中に突きとめることはできなかったし、おそらく述べられていない。ネット検索でも出て来ない。それはさておき、生命進化に時間の長さに対する著者セイノフスキーの畏敬の念はきわめて重い。AIが人間を超えるかどうかということばかりが取りざたされる中で、実際の研究者が自然の先行性や歴史性の潜在的力を侮っていないところがわかるのはとても気持ちが良い。また、部分的に機械の能力が優っているものが出てきたとしても、たんにディストピアが出現したのではなく、新たな世界との向き合い方が可能になる領域が開けたととらえる現実認識の姿勢も心地よいし、それが間違った解釈ではないこともまた重要である。


目次:
第1部:新たな着想による知能
第1章 機械学習の台頭
第2章 人工知能の復活
第3章 ニューラルネットワークの夜明け
第4章 脳型コンピューティング
第5章 視覚系からの知見

第2部:さまざまな学習方法
第6章 カクテルパーティー問題
第7章 ホップフィールド・ネットワークとボルツマンマシン
第8章 誤差逆伝播
第9章 畳み込みネットワークの学習
第10章 報酬学習
第11章 神経情報処理システム(NIPS)カンファレンス

第3部:テクノロジーと科学の衝撃
第12章 機械学習の将来問題
第13章 アルゴリズムの時代
第14章 チップス先生こんにちは(Hello, Mr. Chips)
第15章 情報の中身
第16章 意 識
第17章 自然は私たちよりも賢い
第18章 ディープインテリジェンス

 

【付箋箇所】
12, 19, 45, 51, 68, 80, 102, 103, 134, 138, 176, 228, 249, 258, 265, 270, 274, 276, 280, 286, 288, 294, 301

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