読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2025-03-01から1ヶ月間の記事一覧

井筒俊彦『禅仏教の哲学に向けて』(原著 1977, 訳:野平宗弘 ぷねうま舎 20104)

禅問答における師の回答は修辞疑問である場合が多いという見解が一番印象に残った。 分別知を超えた自他未分主客未分の境位ではたらくのが悟りの智慧であることを、論理的に丁寧に豊富に語っているところが本書の特徴であろう。 世界の知識人たちを相手に、…

訓読・注釈・現代文訳:石井恭二 道元『永平広録』全三冊(河出書房新社 2005)

道元は享年54で、今年になって道元よりも長く生きているということに気がついた。ということで前から気になっていた『正法眼蔵』に取り組もうかと考えていたのだが、何しろ敷居が高そうなので、まずは説法を集めた『永平広録』から読んでみることにした。…

『阿部完市全句集』(沖積舎 1984)

生前刊行の全句集なので全句作が読めるわけではない。2003年出版の『阿部完市俳句集成』も生前刊行なので、おそらく漏れがある。それでもかなり特異な作句傾向は感受できる。 有季定型や客観写生に縛られない独特の韻律を生み出した俳人という評価が一般…

米盛裕二『パースの記号論』(勁草書房 1981)

「プラグマティズム」の提言者でありながらウィリアム・ジェイムズの「プラグマティズム」と一緒にされることを嫌って「プラグマティシズム」と別の造語を出して自らの思想を位置づけたパースの姿勢を明確にする著作。数学嫌いで純論理的思考であるよりも宗…

チャールズ・サンダース・パース『パース著作集 Ⅰ~Ⅲ』(勁草書房 1985-1986 編訳:米盛裕二、内田種臣、遠藤弘)

体系的著述家とはいいがたいパースの哲学を、本家の『論文集』から再構成し、パース哲学の全容を日本の読者に届けた著作集。 アメリカのもっとも偉大な哲学者と言われ、松岡正剛の熱い支持の文章に触れていたりしながら、いままであまりピンとこなかった鈍い…

ハンス・ブルーメンベルク『われわれが生きている現実-技術・芸術・修辞学』(原著 1981, 訳:村井則夫 法政大学出版局 2014)

技術によって自然に手を加え活動範囲である生活世界を広げていった人間の状況を肯定面と否定面双方あげて論じている論文集。どちらかというと肯定面を論じているところ、論文で言うならば「修辞学の現代的意義:人間学的アプローチから」などのインパクトの…

竹村牧男『道元の〈哲学〉  -脱落即現成の世界-』(春秋社 2022)

仏教の悟りに関しては、世俗にも強制する階級的な指標でありながら、仏教内での言語ゲームを受け入れた人にしか通用しないし認められもしない属人的境位というイメージを持っているのだが、「全機現」という概念にも現われている人がもっている全ての機能を…

宮下規久朗の美術案内5冊 イタリア・バロックを中心に

反宗教改革でのカトリック側の芸術による教化の高まりが生み出したバロック芸術を中心に、絵画を核としながら彫刻、建築にも十分に目配せした観光ガイドにもなる西洋美術史のガイド。文面では、図版のない作家たちの作品が網羅性を優先してかなり多く取り上…

エドゥアール・ジュールダン『プルードン』(原著 2023, 訳:伊多波宗周 白水社文庫クセジュ 2024)

プルードンの『所有とは何か』が面白かったので、同じ訳者による最新のプルードン入門紹介の翻訳書である本書を手に取ってみた。訳者あとがきでの「プルードン概説書の決定版」との評価にたがわず、プルードンの全体像がよく伝わる優れた仕事だと感じた。 資…

西脇順三郎『T・S・エリオット 新英米文学評伝叢書』(研究社出版 1956, 1965)

詩人で英文学者でもあった西脇順三郎によるT・S・エリオットの詩の研究。西脇自身は詩人としてよりも批評家としてのエリオットに才能を感じているようであるが、本書は主として詩人としてのエリオットを取り上げている。ラフォルグ、シモンズ、パウンドとの…

ガヤトリ・C・スピヴァク『デリダ論 『グラマトロジーについて』英訳版序文』(原著 1976, 訳:田尻芳樹 平凡社ライブラリー 2005)

1976年に英語版の翻訳が出たデリダの『グラマトロジーについて』(原著1967)の翻訳者序文で、スピヴァクのデビュー作。『グラマトロジーについて』だけでなく、当時出版されていた『弔鐘』や未刊行の論文にまで言及した本格的なデリダ論。スピヴァクの読み…