読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2025-02-01から1ヶ月間の記事一覧

篠原雅武『「人間以後」の哲学 人新世を生きる』(講談社選書メチエ 2020)

哲学書というよりもアート志向の哲学者によるエッセイもしくは私小説って感じで読んだほうがしっくりくる作品。 人間絶滅の危機的状況が突き付けられている歴史的段階に生きる者たちが、従来の人間中心的な思考に対して批判的態度で思考しはじめたところに共…

ピエール・マシュレ『ヘーゲルかスピノザか』(原著 1979, 訳: 鈴木一策+桑田禮彰 新評論 1986, 1998)

目的論のヘーゲルと目的論を拒否するスピノザを対比的に論ずる著作。 スピノザの哲学を捻じ曲げてまで読み批判するヘーゲルの目的論的な視座を、スピノザのエチカの目的論を拒否する論理構成を確認しつつ批判するという枠組みで比較検討されている議論で、著…

ナンシー・K・ギッシュ『時間の超克 -エリオット詩研究-』(原著 1981, 訳:高山吉張+高山翠 山口書店 1984)

最初期の詩作品から『四つの四重奏』に至るエリオットの詩作の変遷を年代順にたどり解説していく著作。代表的作品をほぼもれなく取り上げているので、実作品を読み直しながらエリオット詩を再吟味するのに合っている。前期の人格が皮肉に分裂してしまってい…

『ハイデッガー全集 第55巻(第2部門 講義 1919-44) ヘラクレイトス』(原著 1979, 1987, 訳:辻村誠三, 岡田道程, アルフレド・グッツオーニ 創文社 1990, 東京大学出版会 2021)

根源のロゴスを思索するヘラクレイトスについてのハイデガーの講義二篇。ギリシア語の単語の起源にさかのぼり、断片として残されたヘラクレイトスの言葉が本来的に表現しようとしていたようにハイデガーが自分流に訳し直しながら解釈していく独自のテキスト…

クリス・ベイル『ソーシャルメディア・プリズム SNSはなぜヒトを過激にするのか?』(原著 2021, 訳:松井信彦 みすず書房 2022)

ソーシャルメディアではエコーチェンバー現象によって見解の偏向が強化されているという説に対して、複数の実験調査から違った現象が浮かび上がってきたことを示すレポート。 対立する視点に立つ者たちのテキストにも触れるようになった実験者たちは、むしろ…

訳:上野修 スピノザ全集 第Ⅲ巻『エチカ』

上野修による72年ぶりの新訳。 本書でエチカを読んで思ったことは、畠中尚志訳とのギャップの少なさ。細かく見ていかなければ違いが分からないくらいのものであると思った。 そこで思ったのは、先行する畠中尚志の研究の時代を超えた凄さと、訳業の違いに…

モーリス・ブランショ『完本 焔の文学』(原著 1949, 訳:重信常喜+橋口守人 紀伊國屋書店 新装復刻版 1997)

本書中でかなり気になるところはパスカルについてのヴァレリーの批判的な文章について、ブランショがパスカルのほうに好意的で加勢を寄せているところ。思考の遣り繰りを、計算しつつ書くことであらかじめ自分に納得させることに収まったようなヴァレリーよ…

岸見一郎『幸福の哲学 アドラー×古代ギリシアの智恵』(講談社現代新書 2017)

幸福は失われた時に気づくもの。支障がなければ基本的に意識に上らない日々の状態が、その人がその人であるがままの幸福にある状態で、支障をきたすことが不幸、というよりも、己自身は己である限りにおいていかなる場面においても幸福であり、それ以外の幸…

ジャン=クロード・ブリスヴィル『デカルトさんとパスカルくん  ―劇的対話―』(原著 1985, 訳:竹田篤司訳+石井忠厚 工作舎 1989)

実際に上演されて好評を得たデカルトとパスカルの二人の対話劇のシナリオに、史実と異なるという歴史家ジュヌヴィエーヴ・ロディス=レヴィスからの反駁の文書「デカルトとパスカルの出会い ―実情と虚構」(訳:小林道夫)を付論という形で掲載し、さらに付論…

ハンス・ブルーメンベルク『真理のメタファーとしての光/コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ』(原著 , 編訳:村井則夫 平凡社ライブラリー 2023)

ページ数192で本体価格1600円は通常の値付けの倍くらいではないかと感じるが、その理由は本書のどこにも書かれていない。まずそのあたりをクリアしないとあまり売れないと思うのだが、一見で買う人も少ないであろうから無視しているということか。表紙買いと…