読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

メアリアン・ウルフ『プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?』(原著 2007, 訳:小松淳子 合同出版2008)

人の脳はけっして文字を読むように作られたわけではない。また、ヒエログリフや漢字を読む場合とアルファベットを読む場合では使用される脳の回路が異なっている。

近年大幅に進歩した脳の画像化技術と読字障害研究と文字成立の歴史から文字を操ることの後天的性格と脳の可塑的性格が繰り返し語られている。数千年に渡って創り上げられてきた文字表現とその読み取りの能力の基本を幼年期のわずか数年間で学び、その読み書きの能力に大きく依存しながら生きている現代人の生活は決して当たり前のものではないということが伝わってくる。

また読字に障害を持つ人たちのなかには特異な知見を生み出し世の中に広く影響を与えている人がいて、多くの人々とは違った脳の回路が人間の多様性を生んでいることなども理解できた。

言語優位で思考する人も映像優位で思考する人も外化した記号を利用することで思考を伸ばし思考を変化させている。

本書では本を読み続けていくことのひとつの意味も明瞭に示してくれている。

【目次】
はじめに
PartⅠ 脳はどのようにして読み方を学んだか?
  第1章 プルーストイカに学ぶ
  第2章 古代の文字はどのように脳を変えたのか?
  第3章 アルファベットの誕生とソクラテスの主張
PartⅡ 脳は成長につれてどのように読み方を学ぶか?
  第4章 読字の発達の始まり――それとも、始まらない?
  第5章 子どもの読み方の発達史――脳領域の新たな接続
  第6章 熟達した読み手の脳
PartⅢ 脳が読み方を学習できない場合
  第7章 ディスレクシア(読字障害)のジグソーパズル
  第8章 遺伝子と才能とディスレクシア
  第9章 結論――文字を読む脳から“来るべきもの”へ
解説

【付箋箇所】
34, 36, 41, 49, 104, 110, 238, 242, 251, 317, 318, 324, 332