読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ひろさちや『一遍を生きる』(佼成出版社 2022)

踊念仏を興し、被差別民や芸能とも深いかかわりを持った鎌倉期の流浪の捨聖、一遍。その一遍の生涯と思想を『播州法語集』や『一遍聖絵』(『一遍上人絵伝』)に依りながら語り起こした、ひろさちや最晩年の著作。日本仏教の祖師たちのひとりである一遍の教えや生き方が現代にどのような示唆を与えてくれるか、もったいをつけることなくストレートに打ち出そうとしている姿勢が好ましい一冊。
名利を棄て、世間の物差しを棄て、二元論的な分別心を棄て、阿弥陀仏が成仏した国土で、安心を得て生きるというのが、鎌倉期最後の浄土門の宗派である一遍の時宗の教えであるというのが、本書が伝えようとしている大きな柱である。ただこれは、他の書物でも一般的に示されることであって、本書の特徴としては、浄土真宗一向宗)の開祖親鸞の「如来から賜りたる信心」を引きながら、一遍においても同様に現われている「信心不要論」を強調しているところが最も印象に残る。「信じる」という自力ではなく、阿弥陀如来が「信じさせてくださる」という他力の考えと、その考えに基づいた念仏という帰依の行為の実践が、世俗世界では得難い救済や解放を広く人々にもたらし、多くの人に受け入られていった様子が語られている。語り方は一遍賛美一辺倒ではなく、一遍の迷いや、布教における思惑や計算、他力門であるに拘らず自力の思想が顔を出してくることへの批判など、かなり相対化して語られているので、押し付けがましさがなく、かなりすっきりとしている。一遍の教えに今現在の世の中で賛同できるかどうかは別にして、かつては非常に大きな影響力を持った一遍という民衆寄りの興味深い僧が居たことを知るには手頃でいい入門書である。一遍の行状をより身近に感じるためには、本書でも多く参照引用されている『一遍聖絵』(『一遍上人絵伝』)を併せて閲覧するのがよい。単純に美術作品としても物語絵巻としてもすぐれた作品なので、一通り目を通しておいて損はない。

books.kosei-shuppan.co.jp

【付箋箇所】
45, 49, 71, 90, 96, 112, 135, 162, 166, 169, 187, 195

目次:
まえがき
第1章 一遍という人
第2章 すべてを捨てる覚悟
第3章 一遍と踊り念仏
第4章 鎌倉から京都へ
第5章 四天王寺から当麻寺、そして故郷へ
第6章 一遍の最後の旅
第7章 一遍の念仏の理論
第8章 一遍に生き方を学ぶ
一遍略年譜

一遍
1239 - 1289
ひろさちや
1930 - 2022

参考:

uho360.hatenablog.com

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