読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

元木幸一『西洋絵画の巨匠 12 ファン・エイク』(小学館 2007)31×23cm

ファン・エイクがもたらした油彩技術の革新と新しい絵画モチーフに重点をおいて紹介解説するために、特定作品に比重を置き、全体図と部分図から詳しく説明を施しているのが特徴の画集。ファン・エイクの油彩画30点はほとんど取り上げられているが、そのなかでは「ロランの聖母子」「ファン・デル・パーレの聖母子」「ヘントの祭壇画」「アルノルフィーニ夫妻の肖像」「ドレスデンの三連画」「受胎告知」「聖女バルバラ」などが複数図版から検討されているのが目を引く。

日常の光景の導入、中景の発見、遠近法の進展、超絶技巧がもたらす細部へのこだわりと主題とは関係ない悪戯心での技術の主張、グリザイユに因る彫刻と見まがうようなだまし絵効果など。ほかの画集でも触れられているものもあるが、本書での紹介はより鮮明で、ほかの画家との比較なども加わり、ファン・エイクが突出した存在であることがよくわかる。

また、これらの技巧や観点が油彩時代以前の写本挿絵での研鑽から生まれたことも、ファン・エイクがかかわった「トリノ=ミラノ時禱書」の図版を多く取り上げることで跡づけている。

見事な構成と文章で、ファン・エイクが現代においても色あせない挑発し続ける画家であり、残された作品の数々が今もって驚異的なでものあることを、本書はよく伝えてくれている。

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ヤン・ファン・エイク
1390 - 1441
元木幸一
1950 -