読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

三木清論3冊 岸見一郎『100分de名著 三木清 人生論ノート ―孤独は知性である―』(NHK出版 2021)、永野基綱『人と思想 三木清』(清水書院 2009)、唐木順三『三木清』(筑摩叢書 1946, 1966)

三木清(1897-1945)は20世紀前半に活動した京都学派の哲学者。西田幾多郎ハイデガーに師事。『パスカルに於ける人間の研究』
から著作活動がはじまり遺稿の親鸞ノートで終わる思索活動は、一方で宗教的なものに惹かれながら、マルクス主義論者としての活動やカント思想から着想を得た『構想力の論理』の理性と実践的活動の統一理論を目指した人生哲学を展開した。時代に対応しながら変容していく思想表現と、日常的な事柄にまで及んでいたであろう時代の常識におさまりきらない言動や態度は、畏敬の念をもって近づくものがいた半面、批判的にみられることも多かったようだ。今回読んだ3冊の三木清論はそれぞれの立場から見た三木清の姿を描いていて、複数の角度から三木清が背負った複雑な立場を立体的に浮かび上がらせてくれるので興味深い。言論活動に制約の多かった時代において実際に生きて思索した一人の人物の存在を心に止めておくのに役立つ3冊だった。

 


岸見一郎『100分de名著 三木清 人生論ノート ―孤独は知性である―』

岸見一郎(1956-)は『嫌われる勇気』などでアドラー心理学を一般向けに実践的に紹介したことで知られる哲学者、心理学者。この人は人生の指針となる先人の言葉を紹介することに長けているのであろう。対象たる三木清への批判的見解についてはいったん棚に上げて、市井の一般読者に即効性のある思索を無理なく消化吸収可能な程度に掬い上げて提供してくれているところに妙味がある。代表作『人生論ノート』を軸に三木清の思索の方向性を端的に記述しているところが専門家以外には効果的であり効率的である。よき導入書。基本的に疑問を持たずに読める。

www.nhk-book.co.jp

【目次】
第1章 真の幸福とは何か
第2章 自分を苦しめるもの
第3章 「孤独」や「虚無」と向き合う
第4章 「死」を見つめて生きる
ブックス特別章 孤独は知性である

【付箋箇所】
5, 8, 9, 18, 21, 27, 34, 38, 44, 86, 126, 127, 129, 130, 132, 136, 139, 140, 142, 143, 145, 153

 


永野基綱『人と思想 三木清

マルクス主義論で昭和初頭当時の若い知識人層に大きな影響を与えた活動を中心に三木清を論じ評価した一冊。三木30代、昭和初頭の仕事に焦点が当てられ、その可能性が問われる著作。
マルクス主義的世界観の脱資本主義的自由への志向を重視する態度で書かれており、その後の思想展開についてはすこし冷淡な感じを受けた。傍から見れば思想的に一貫していないと突込みどころもある三木清の思索の姿を、その屈折点ともいえるマルクス主義への関わりを中心に描いた問題提起ともいえる著作。
激動の世界のなかで思考した一人物への、ひとつの立場からの問いかけであり、自己検証の起点として表された著作であろう。

【目次】
1 個人と社会
 孤独な田舎者
 個性と歴史
 日常世界の解釈
 『パスカルに於ける人間の研究』
2 革命と主体
 マルクス主義と革命
 『唯物史観と現代の意識』
 意識と言葉
 存在性の相違
3 歴史と運命
 逮捕と排除
 『歴史哲学』
 不安と危機の時代
 新しい人間のタイプ
4 翼賛と抵抗
 『構想力の論理』
 「協同主義」と「東亜新秩序」
 総力戦体制へ
5 死と生涯
 「聖戦」
 獄中での死
 三木清、人と思想

【付箋箇所】
52, 56, 92, 119. 141, 166, 177, 180, 204, 235

 


三木清に私淑していた唐木順三によるほぼリアルタイムの三木清評。カント寄りの構想力の論理と親鸞の他力信仰の整合性への疑問は一般読者層にとっても妥当なものだが、回答はない。三木清側に明確な回答がないため唐木順三の責任ではないことは十分に分かるので、解決されない問いとして個々が読み解こうとするか、問い自体を否定していていくか、開かれた問いとして突きつけられ問われている。

 

 

www.chikumashobo.co.jp

唐木順三三木清

【目次】
三木清 
人 
 三木清といふひと 
 処女作をめぐつて
 個性の問題
 ハイデッゲルとの邂逅と訣別
 ニイチェとの対決
 『哲学ノート』について
 遺稿『親鸞』について
哲学
 存在の根拠
 試論 
疑問 
 ヒューマニズムに関連して 
 発明と発見 
附録 
イデアリスティッシュ、フマニスティッシュ、宗教的 
『読書と人生』について 
三木清といふひと 

【付箋箇所】
7, 9, 10、11, 18, 22, 29, 52, 97, 116, 118, 122, 38, 144, 145, 146, 179, 181, 214, 224, 235, 236, 238, 241, 243, 244, 245, 249


三木清
1897 - 1945
岸見一郎
1956 - 
永野基綱
1936 - 
唐木順三
1904 - 1980

 

 

 

 


―――――――――――――――――――――――

三木清 本人の著作
三木清全集 第七巻』(岩波書店 1967)

【目次】
哲学入門 
技術哲学 
形而上学 
現代哲学思潮 
文化社会学 
社会科学 
社会道徳 
自由と自由主義 
*後記(桝田啓三郎) 
 
【付箋箇所】(「哲学入門」「技術哲学」「後記(桝田啓三郎)」)
10, 14, 15, 24, 31, 63, 75, 81, 87, 90, 107, 122, 129, 136, 142, 144, 158, 177, 179, s184, 187, 201, s210, 211, 231, 241, 246, 247, 256, 266, 269, 285, 482, 483, 484, 488, 490

 

 

三木清

日本の20世紀前半、戦時期日本の哲学者