読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジョン・フォン・ノイマン『計算機と脳』(原書1958, 2000 ちくま学芸文庫 2011)

ノイマンの遺稿。現代コンピュータの生みの親が最後に綴った言葉は六十年の時を経てもなお輝きを失わない。第三次人工知能ブームの世の中で一般向けに出版されている解説文に書かれている基本的な重要情報は本篇100ページに満たないノイマンの原稿のなかに凝縮された形で埋め込まれているし、なによりも創発期の妖しい熱気というものが使用されている語彙から立ちのぼってくるように思えるところが凄い。天才の遺産だ。

言語はおおむね、歴史的な偶然の産物と了解するのが適切だろう。人間の基本的言語は昔から、様々な形で私たちに伝わっているが、多数が存在すること自体、言語には絶対的なところも必然的なところもないことの証だ。ギリシア語やサンスクリットのような言語が生まれたのは歴史的事実であって、論理的必要性によるものではないのとちょうど同じで、論理学と数学もまた、歴史的・偶発的な表現形式と見なすのが理にかなっている。論理学と数学は本質的な変種を持ちうる。つまり、私たちに馴染みのあるもの以外の形でも存在しうる。実際、中枢神経系とそれが伝達する通信系の特質から、それがはっきり見て取れる。すでにじゅうぶんな証拠を積み重ねてきたから、中枢神経系がどんな言語を用いているにせよ、私たちが通常親しんでいるものよりも小さい論理深度と算術的深度を特徴としているのがわかる。
(第2部 脳 「数学の言語ではなく脳の言語」p113) 

 

「論理学と数学は本質的な変種を持ちうる」というような視点を、研究者でもない一般層(特に文系の人間)に明晰かつ軽快に教えてくれる書籍は、なかなか見当たらないとおもう。「中枢神経系がどんな言語を用いているにせよ、私たちが通常親しんでいるものよりも小さい論理深度と算術的深度を特徴としているのがわかる」という所に関しては、天然の自動機械(オートマトン)である中枢神経系と人工の自動機械であるコンピュータを比較分析しているノイマンの自身の文章を実際に読まれることをお勧めする。別様の世界を垣間見せてくれることと思う。

 

目次:
第1部 計算機
 アナログ計算機の処理手順
 論理的制御
 数値の複合的な処理手順
 精度
 現代アナログ計算機の特徴
 現代デジタル計算機の特徴

第2部 脳
 ニューロンの機能の概要
 刺激基準
 神経系における記憶の問題
 神経系のアナログ部分とデジタル部分
 コードと、計算機の機能制御におけるその役割
 神経系の論理構造
 用いられる記号系の特質 ――デジタル的ではなく統計的
 数学の言語ではなく脳の言語
 

www.chikumashobo.co.jp

 

ジョン・フォン・ノイマン
1903 - 1957

訳:
柴田裕之
1959

解説:
野﨑昭弘
1936 -