読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

高畑勲『一枚の絵から 日本編』(岩波書店 2009)日本のアニメの巨匠の眼を借りて観る日本の絵画と工芸品

高畑勲は言わずと知れた日本のアニメータ。私は彼の手掛けたテレビアニメを再放送で見た世代。『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』など。個人的にいちばん高畑勲っぽいなと感じるのは『じゃりン子チエ』か。映画だと『ホーホケキョ となりの山田くん』あたりだろうか。『かぐや姫の物語』とかは、ちゃんと見れていない。個人的な趣味の問題だと思うが、高畑勲のアニメーションのテンポ感があまりしっくりこないので、本書もどんなものだろうと、疑いながら読みはじめてみたが、これが絶品。隣接分野の第一人者が見えすぎる眼と感覚で感動し動揺しながら日本画や絵巻の作品に向き合っている様子が浮かんでくるような文章なのだ。東大仏文卒ということもあってか国内外の文学作品などに絡ませながら作品を解説していく知性の輝きも見せてくれる。守備範囲の広い考察がなされていて感心するばかりだ。

視点や構図の取り方がおそろしく映画的だということだけでもすごいが、これを、主に輪郭線と色面による表現だけでおこなったことに、もうひとつの近代性がある。奥行きの深い「縦の構図」をとっているのに、前景も中景も後景も、線と色面だけの層を平面的に重ねただけなので、絵は深くも重くもならず、じつに平明で開放的な気分をもたらす。
これが十九世紀後半の西洋画家たちに連綿とのしかかっていた強い陰影や立体的重量感の重苦しさから解放されたがっていたのだから。線と色面の浮世絵版画は、題材をふくめ、市民生活にふさわしい平明な絵の魅力を彼らに示したが、なかでも『名所江戸百景』の重層的遠近法は、自分たちに血肉化している立体的空間把握を捨てないままで平面化を実現できる可能性を教えたに違いない。
歌川広重:「名所江戸百景」から「四ツ谷内藤新宿」 p160-162 )

浮世絵の後期印象派、アールヌーヴォーへの影響を語りながら、映画やアニメーションやマンガへの逆照射を実作者の経験を交えて縦横に語る高畑勲。一般的鑑賞者にすぎないわたしは、ただただすごいねえと感じるばかりの読書だった。

【付箋箇所】
1, 6, 18, 22, 26, 66, 96, 120, 133, 134, 136, 1141, 142, 149, 158, 160, 162, 178, 189, 218, 229, 244

www.iwanami.co.jp

 

目次:
まえがき
常盤光長:「伴大納言絵巻」上巻より応天門炎上を見上げる人々
藤原豪信:「花園天皇像」
藤原隆章:「慕帰絵詞」巻第五より独楽遊び
雪舟:「秋冬山水図」より冬景図
狩野永徳:「「花鳥図襖」より梅に水禽図」「徳川家康三方ヶ原戦役画像(顰像)」「烏図屏風」
狩野長信:「花下遊楽図屏風」
俵屋宗達:「伊勢物語図」から「芥川」
岩佐又兵衛工房作:「浄瑠璃物語絵巻」より
尾形光琳:「立姿美人図(画稿)」
与謝蕪村:「雲上仙人図」
伊藤若冲:「果蔬(かそ)涅槃図」
円山応挙:「朝顔狗子図杉戸」
伊藤若冲:「鶴図屏風」「黒地三笠山鹿模様打掛」
渡辺崋山:「五郎像」
八十五老卍:「月みる虎図」
歌川広重:「名所江戸百景」から「四ツ谷内藤新宿
佐伯祐三:「下落合風景」
小林古径:「清姫」から「清姫
小早川秋聲(声):「国之楯」
鶴岡政男:「重い手」
佐藤哲三:「みぞれ/コドモと柿の夢」
鳥海青児:「うずくまる」
東山魁夷:「樹根」
熊谷守一:「宵月」
香月泰男:「父と子」
小倉遊亀:「観自在」
横尾忠則:「朱い水蒸気」
男鹿和雄:「ねずてん」

 

高畑勲
1935 - 2018

辻惟雄『日本美術の歴史』(東京大学出版局 2005)瑞々しい図版と読ませる文章でおくる辻版日本美術史

書店(BOOKOFFだけど)で手に取って棚に戻さなかったのは、図版のたたずまいがキリっとしていてチョイスもどことなく変わっていたため。表紙も横尾忠則デザインで只者ではなさそうな雰囲気はあったが、橋本治の『ひらがな日本美術史』にも通じるところのある、個人の視点が大変刺激的で大変参考になる日本美術愛あふれる一冊だった。
縄文土器や銅鐸に関する記述からはじまって、現代のジブリ作品や大友克洋まで、自分の眼を通して生まれた感動と衝撃をベースに書かれた辻惟雄の文章は印象深く、記憶に残る情報がとても多い。
読んでいない人にも伝わるような、これぞ辻惟雄という特徴が出ている文章はなにかなと軽く数回見返してみていたなかで、黒田清輝「智・感・情」(1899)についての記述が目に止まった。

かれは、西欧アカデミズムの「構想図」を日本に移植すべく誠実に努力した。金地をバックに、日本の裸婦のプロポーションを理想化して三尊仏のように配した「智・感・情」(一八九九)は一九〇〇年のパリ万博に出陳されて好評だったというが、二〇〇四年から〇五年にかけて東京国立博物館等で開催された「万博展」で、厚ぼったい西洋アカデミシャンの絵の中に置かれたのを見ると、日本的な平面性が清潔な印象を与え好ましかった。西洋アカデミズム対する、かれなりの最善をつくした回答であろう。
(第10章 近・現代(明治―平成)の美術 2「近代美術への新動向[明治美術・続]」p365-367)

日本的感性と対象を油彩画で描くことの困難と達成を自身の鍛え上げた審美眼とともにサラッと書き伝えてくれる辻惟雄の著述家としての魅力がでている文章であると思う。それから「智・感・情」のモデルが、私の好きな池谷のぶえ30歳くらいを連想させるというのもオマケになっている。

 

日本美術の歴史 - 東京大学出版会

 

目次:
まえがき
第1章 縄文美術――原始の想像力
第2章 弥生・古墳美術
第3章 飛鳥・白鳳美術――東アジア仏教美術の受容
第4章 奈良時代の美術(天平美術)――唐国際様式の盛行
第5章 平安時代の美術(貞観・藤原・院政美術)
第6章 鎌倉美術――貴族的美意識の継承と変革
第7章 南北朝・室町美術
第8章 桃山美術――「かざり」の開花
第9章 江戸時代の美術
第10章 近・現代(明治―平成)の美術
文献案内
掲載図版一覧
索引


辻惟雄
1932 -

 

【中井正一を読む】07. 読書資料 全集収録データ(全集掲載順、発表年代順、CSV)

|【全集収録データ(全集掲載順)】|【全集収録データ(発表年代順)】|【全集収録データ(CSVデータ)】

 

【全集収録データ(掲載順)】 

題名 掲載誌 発表年月 全集 全集
掲載順
その他
模写論の美学的関連 『美・批評』 1934.05 全1 1  
Subjektの問題 『思想』 1935.09 全1 2  
委員会の論理 『世界文化』 1936.01-03 全1 3 岩波
さまよえるユダヤ 『カスタニエン』(京都大学ドイツ文学会編集) 1936.10 全1 4  
合理主義の問題 『学生評論』 1937.03 全1 5  
感嘆詞のある思想 『学海』 1945.03 全1 6 岩波
機能概念の美学への寄与 『哲学研究』 1930.11 全1 7  
機能概念の美学への寄与 『美・批評』 1930.09 全1 8  
言語 『哲学研究』 1927.09、1928.04 全1 9  
発言形態と聴取形態ならびにその芸術的展望 『哲学研究』 1929.02 全1 10  
意味の拡延方向ならびにその悲劇性 『哲学研究』 1930.02 全1 11  
カント第三批判序文前稿について 『哲学研究』 1927.07 全1 12  
カントにおける中間者としての構想力の記録 『哲学評論』 1949.03 全1 13  
三木君と個性 『回想の三木清』所収 1948.01 全1 14  
戸坂君の追憶 『回想の戸坂潤』所収 1948.1 全1 15  
回想十年 『哲学研究』 1951.02 全1 16  
書評 9篇     全1 17  
スポーツ気分の構造 『思想』 1933.05 全1 18 岩波
スポーツの美的要素 京都帝国大学新聞』 1935.05-06 全1 19 岩波
スポーツ美の構造 原稿 執筆年月不明 全1 20  
芸術の人間学的考察 『理想』 1931.10 全2 1 岩波
ノイエ・ザッハリッヒカイトの美学 『美・批評』 1932.05 全2 2  
リズムの構造 『美・批評』 1932.09 全2 3 岩波
思想的危機における芸術ならびにその動向 『理想』 1932.09 全2 4  
現代における美の諸性格 『理想』 1934.07 全2 5  
リアリズム論の基礎問題、二、三 『美・批評』 1934.09 全2 6  
芸術における媒介の問題 『思想』 1947.02 全2 7  
近代美と世界観 『近代美の研究』所収 1947.06 全2 8  
脱出と回帰 『思想』 1951.08 全2 9 岩波
絵画の不安 『美』(京都市立美術工芸絵画専門学校校友会編集) 1930.07 全2 10 岩波
集団美の意義 大阪朝日新聞 1930.07 全2 11  
レムブランドの生きた道 大阪朝日新聞 1937.05 全2 12  
集団的芸術 『プレスアルト』 1937.09 全2 13  
ヒューマニズムの憂愁 映画芸術 1946.12 全2 14  
気質(かたぎ) 『美・批評』 1932.01 全2 15 岩波
こつ・気合・呼吸 大阪朝日新聞 1933.11 全2 16  
日本の美 『NHK教養大学』宝文館 1952.08 全2 17  
転換期の美学 講義聴講者ノート   全2 18  
美学概論 講義聴講者ノート   全2 19  
美学入門 河出書房刊 1951.07 全3 1 岩波
春のコンティニュイティー 『美・批評』 1931.01 全3 2  
物理的集団的性格 『美・批評』 1931.05 全3 3  
コンティニュイティーの論理性 『学生評論』 1936.06 全3 4  
映画時評 『世界文化』 1936.06、08、12 全3 5  
現代美学の危機と映画理論 『映画文化』 1950.05 全3 6  
カットの文法 『シナリオ』 1950.07 全3 7  
映画と季感 『シナリオ』 1950.09 全3 8  
映画のもつ文法 読書春秋 1950.09 全3 9  
生きている空間 『シナリオ』 1951.01 全3 10  
色彩映画のシナリオ 『シナリオ』 1951.04 全3 11  
過剰の意識 『シナリオ』 1951.07 全3 12  
大衆の知恵 『シナリオ』 1951.09 全3 13  
色彩映画の思い出 『映画の友』 1951.09 全3 14  
機械美の構造 『思想』 1929.04 全3 15  
文学の構成 『新興芸術』 1930 全3 16  
探偵小説の芸術性 『美・批評』 1930.05 全3 17 岩波
芸術的空間 『美・批評』 1931.04 全3 18 岩波
日本の現代劇とは 『悲劇喜劇』 1951.09 全3 19  
『光画』 1932.06 全3 20  
うつす 『光画』 1932.07 全3 21  
「見ること」の意味 『国民芸術』 1937.04 全3 22  
行動の意味 『パレット』 1946 全3 23  
行動美術展をみる 美術手帖 1949.1 全3 24  
一握の大理石の砂 『パレット』 1950 全3 25  
一九三〇年 京都帝国大学新聞』 1930.12.21 全4 1  
現代青年の思想について 講演草稿 1935 全4 2  
蓄音機の針 『京都日出新聞』 1933.06.05 全4 3  
真理を求めて 中国新聞 1951.08 全4 4  
三木・戸坂両君を憶う 『夕刊京都』 1946.10.06 全4 5  
『土曜日』巻頭言 『土曜日』 1936.07.04~1937.10.05 全4 6  
『美しい婦人の友』 1952.03 全4 7  
われらが信念 『昭徳』 1942.04 全4 8  
橋頭堡 京都新聞 1944.09.08~1945.02.15 全4 9  
組織への再編成 京都大学新聞』 1950.09.25 全4 10  
知識と政治との遊離 『改造』 1948.12 全4 11  
文化のたたかい 『社会教育』 1951.10 全4 12  
農村の思想 『国民講座』 1951.10 全4 13  
農閑期の文化運動 『光』 1948.01 全4 14  
地方の青年についての報告 『青年文化』 1947.11 全4 15  
地方文化運動報告 『青年文化』 1947.01 全4 16  
地方文化の問題 『季刊大学』 1948.08 全4 17  
聴衆0の講演会 『朝日評論』 1950.04 全4 18  
実践について 『青年文化』 1948.09 全4 19  
図書館に生きる道 図書館雑誌 1949.05 全4 20 岩波
国立国会図書館について 東京新聞 1948.07.24 全4 21  
国立国会図書館の任務 『評論』 1948.11 全4 22  
国会図書館のこのごろ 『朝日評論』 1950.11 全4 23  
焚書時代」の出現 『社会新聞』 1948.11.10 全4 24  
「良書普及運動」に寄せて 図書館雑誌 1950.09 全4 25  
民族の血管 出版ニュース 1950.01 全4 26  
読書週間に寄せて 学校図書館 1951.10 全4 27  
出版界に大龍巻を ファイナンス・ダイジェスト』 1951.09 全4 28  
図書館法と出版界 『図書』 1951.10 全4 29  
焚書時代」を脱却 朝日新聞 1952.01.01 全4 30  
図書館法ついに通過せり 図書館雑誌 1950.04 全4 31  
図書館法の成立 『社会教育』 1950.05 全4 32  
図書館法楽屋話 『法律のひろば』 1950.07 全4 33  
図書館法を地方の万人の手に 出版ニュース 1950.05 全4 34  
公民館と書ダナ 朝日新聞 1951.12.24 全4 35  
二十世紀の頂における図書館の意味 『読書』 1950.02 全4 36 岩波
巨像を彫るもの 『土』 1951.04 全4 37  
機構への挑戦 東京大学新聞』 1949.06 全4 38  
移りゆく図書の概念 『図書』 1950.02 全4 39  
歴史の流れの中の図書館 読書春秋 1951.05 全4 40  
集団文化と読書 『読書人』 1951.07 全4 41  
図書館の未来像 『図書館年鑑』 1951.10 全4 42 岩波
大会を終りて 図書館雑誌 1950.06 全4 43  
図書館協会六十周年に寄せて 出版ニュース 1951.10 全4 44  
支部図書館三周年に寄せて 『びぶろす』 1951.11 全4 45  
組織としての図書館へ 『びぶろす』 1950.02 全4 46  
アメリカ教育使節団の報告書を読みて 図書館雑誌 1950.12 全4 47  
国会図書館の窓から 『ブックス』 1949.03 全4 48  
図書館 宮原誠一編『社会教育』 1950 全4 49  
調査機関 『思想』 1952.04 全4 50 岩波
気(け、き)の日本語としての変遷   1947 岩波
図書館の意味   1950 岩波

 

【全集収録データ(発表年代順)】

 

題名 掲載誌 発表年月 全集 全集掲載順 その他
カント第三批判序文前稿について 『哲学研究』 1927.07 全1 12  
発言形態と聴取形態ならびにその芸術的展望 『哲学研究』 1929.02 全1 10  
機械美の構造 『思想』 1929.04 全3 15  
文学の構成 『新興芸術』 1930 全3 16  
意味の拡延方向ならびにその悲劇性 『哲学研究』 1930.02 全1 11  
探偵小説の芸術性 『美・批評』 1930.05 全3 17 岩波
絵画の不安 『美』(京都市立美術工芸絵画専門学校校友会編集) 1930.07 全2 10 岩波
集団美の意義 大阪朝日新聞 1930.07 全2 11  
機能概念の美学への寄与 『美・批評』 1930.09 全1 8  
機能概念の美学への寄与 『哲学研究』 1930.11 全1 7  
春のコンティニュイティー 『美・批評』 1931.01 全3 2  
芸術的空間 『美・批評』 1931.04 全3 18 岩波
物理的集団的性格 『美・批評』 1931.05 全3 3  
芸術の人間学的考察 『理想』 1931.10 全2 1 岩波
気質(かたぎ) 『美・批評』 1932.01 全2 15 岩波
ノイエ・ザッハリッヒカイトの美学 『美・批評』 1932.05 全2 2  
『光画』 1932.06 全3 20  
うつす 『光画』 1932.07 全3 21  
リズムの構造 『美・批評』 1932.09 全2 3 岩波
思想的危機における芸術ならびにその動向 『理想』 1932.09 全2 4  
スポーツ気分の構造 『思想』 1933.05 全1 18 岩波
こつ・気合・呼吸 大阪朝日新聞 1933.11 全2 16  
模写論の美学的関連 『美・批評』 1934.05 全1 1  
現代における美の諸性格 『理想』 1934.07 全2 5  
リアリズム論の基礎問題、二、三 『美・批評』 1934.09 全2 6  
現代青年の思想について 講演草稿 1935 全4 2  
Subjektの問題 『思想』 1935.09 全1 2  
コンティニュイティーの論理性 『学生評論』 1936.06 全3 4  
さまよえるユダヤ 『カスタニエン』(京都大学ドイツ文学会編集) 1936.10 全1 4  
合理主義の問題 『学生評論』 1937.03 全1 5  
「見ること」の意味 『国民芸術』 1937.04 全3 22  
レムブランドの生きた道 大阪朝日新聞 1937.05 全2 12  
集団的芸術 『プレスアルト』 1937.09 全2 13  
われらが信念 『昭徳』 1942.04 全4 8  
感嘆詞のある思想 『学海』 1945.03 全1 6 岩波
行動の意味 『パレット』 1946 全3 23  
ヒューマニズムの憂愁 映画芸術 1946.12 全2 14  
気(け、き)の日本語としての変遷   1947 岩波
地方文化運動報告 『青年文化』 1947.01 全4 16  
芸術における媒介の問題 『思想』 1947.02 全2 7  
近代美と世界観 『近代美の研究』所収 1947.06 全2 8  
地方の青年についての報告 『青年文化』 1947.11 全4 15  
三木君と個性 『回想の三木清』所収 1948.01 全1 14  
農閑期の文化運動 『光』 1948.01 全4 14  
地方文化の問題 『季刊大学』 1948.08 全4 17  
実践について 『青年文化』 1948.09 全4 19  
戸坂君の追憶 『回想の戸坂潤』所収 1948.1 全1 15  
国立国会図書館の任務 『評論』 1948.11 全4 22  
知識と政治との遊離 『改造』 1948.12 全4 11  
カントにおける中間者としての構想力の記録 『哲学評論』 1949.03 全1 13  
国会図書館の窓から 『ブックス』 1949.03 全4 48  
図書館に生きる道 図書館雑誌 1949.05 全4 20 岩波
機構への挑戦 東京大学新聞』 1949.06 全4 38  
行動美術展をみる 美術手帖 1949.1 全3 24  
一握の大理石の砂 『パレット』 1950 全3 25  
図書館 宮原誠一編『社会教育』 1950 全4 49  
図書館の意味   1950 岩波
民族の血管 出版ニュース 1950.01 全4 26  
二十世紀の頂における図書館の意味 『読書』 1950.02 全4 36 岩波
移りゆく図書の概念 『図書』 1950.02 全4 39  
組織としての図書館へ 『びぶろす』 1950.02 全4 46  
聴衆0の講演会 『朝日評論』 1950.04 全4 18  
図書館法ついに通過せり 図書館雑誌 1950.04 全4 31  
現代美学の危機と映画理論 『映画文化』 1950.05 全3 6  
図書館法の成立 『社会教育』 1950.05 全4 32  
図書館法を地方の万人の手に 出版ニュース 1950.05 全4 34  
大会を終りて 図書館雑誌 1950.06 全4 43  
カットの文法 『シナリオ』 1950.07 全3 7  
図書館法楽屋話 『法律のひろば』 1950.07 全4 33  
映画と季感 『シナリオ』 1950.09 全3 8  
映画のもつ文法 読書春秋 1950.09 全3 9  
「良書普及運動」に寄せて 図書館雑誌 1950.09 全4 25  
国会図書館のこのごろ 『朝日評論』 1950.11 全4 23  
アメリカ教育使節団の報告書を読みて 図書館雑誌 1950.12 全4 47  
生きている空間 『シナリオ』 1951.01 全3 10  
回想十年 『哲学研究』 1951.02 全1 16  
色彩映画のシナリオ 『シナリオ』 1951.04 全3 11  
巨像を彫るもの 『土』 1951.04 全4 37  
歴史の流れの中の図書館 読書春秋 1951.05 全4 40  
美学入門 河出書房刊 1951.07 全3 1 岩波
過剰の意識 『シナリオ』 1951.07 全3 12  
集団文化と読書 『読書人』 1951.07 全4 41  
真理を求めて 中国新聞 1951.08 全4 4  
脱出と回帰 『思想』 1951.08 全2 9 岩波
大衆の知恵 『シナリオ』 1951.09 全3 13  
色彩映画の思い出 『映画の友』 1951.09 全3 14  
日本の現代劇とは 『悲劇喜劇』 1951.09 全3 19  
出版界に大龍巻を ファイナンス・ダイジェスト』 1951.09 全4 28  
文化のたたかい 『社会教育』 1951.10 全4 12  
農村の思想 『国民講座』 1951.10 全4 13  
読書週間に寄せて 学校図書館 1951.10 全4 27  
図書館法と出版界 『図書』 1951.10 全4 29  
図書館の未来像 『図書館年鑑』 1951.10 全4 42 岩波
図書館協会六十周年に寄せて 出版ニュース 1951.10 全4 44  
支部図書館三周年に寄せて 『びぶろす』 1951.11 全4 45  
『美しい婦人の友』 1952.03 全4 7  
調査機関 『思想』 1952.04 全4 50 岩波
日本の美 『NHK教養大学』宝文館 1952.08 全2 17  
言語 『哲学研究』 1927.09、1928.04 全1 9  
一九三〇年 京都帝国大学新聞』 1930.12.21 全4 1  
蓄音機の針 『京都日出新聞』 1933.06.05 全4 3  
スポーツの美的要素 京都帝国大学新聞』 1935.05-06 全1 19 岩波
委員会の論理 『世界文化』 1936.01-03 全1 3 岩波
映画時評 『世界文化』 1936.06、08、12 全3 5  
『土曜日』巻頭言 『土曜日』 1936.07.04~1937.10.05 全4 6  
橋頭堡 京都新聞 1944.09.08~1945.02.15 全4 9  
三木・戸坂両君を憶う 『夕刊京都』 1946.10.06 全4 5  
国立国会図書館について 東京新聞 1948.07.24 全4 21  
焚書時代」の出現 『社会新聞』 1948.11.10 全4 24  
組織への再編成 京都大学新聞』 1950.09.25 全4 10  
公民館と書ダナ 朝日新聞 1951.12.24 全4 35  
焚書時代」を脱却 朝日新聞 1952.01.01 全4 30  
スポーツ美の構造 原稿 執筆年月不明 全1 20  
書評 9篇     全1 17  
転換期の美学 講義聴講者ノート   全2 18  
美学概論 講義聴講者ノート   全2 19  

 

【全集収録データ(CSV型式)】

題名,掲載誌,発表年月,全集,全集掲載順,その他
模写論の美学的関連,『美・批評』,1934.05,全1,1,
Subjektの問題,『思想』,1935.09,全1,2,
委員会の論理,『世界文化』,1936.01-03,全1,3,岩波
さまよえるユダヤ人,『カスタニエン』(京都大学ドイツ文学会編集) ,1936.10,全1,4,
合理主義の問題,『学生評論』,1937.03,全1,5,
感嘆詞のある思想,『学海』,1945.03,全1,6,岩波
機能概念の美学への寄与,『哲学研究』 ,1930.11,全1,7,
機能概念の美学への寄与,『美・批評』,1930.09,全1,8,
言語,『哲学研究』,1927.09、1928.04,全1,9,
発言形態と聴取形態ならびにその芸術的展望,『哲学研究』,1929.02,全1,10,
意味の拡延方向ならびにその悲劇性,『哲学研究』,1930.02,全1,11,
カント第三批判序文前稿について,『哲学研究』,1927.07,全1,12,
カントにおける中間者としての構想力の記録,『哲学評論』,1949.03,全1,13,
三木君と個性,『回想の三木清』所収,1948.01,全1,14,
戸坂君の追憶,『回想の戸坂潤』所収,1948.1,全1,15,
回想十年,『哲学研究』,1951.02,全1,16,
書評 9篇,,,全1,17,
スポーツ気分の構造,『思想』 ,1933.05,全1,18,岩波
スポーツの美的要素,『京都帝国大学新聞』,1935.05-06,全1,19,岩波
スポーツ美の構造,原稿 ,執筆年月不明,全1,20,
芸術の人間学的考察,『理想』,1931.10,全2,1,岩波
ノイエ・ザッハリッヒカイトの美学,『美・批評』,1932.05,全2,2,
リズムの構造,『美・批評』,1932.09,全2,3,岩波
思想的危機における芸術ならびにその動向,『理想』,1932.09,全2,4,
現代における美の諸性格,『理想』,1934.07,全2,5,
リアリズム論の基礎問題、二、三,『美・批評』,1934.09,全2,6,
芸術における媒介の問題,『思想』,1947.02,全2,7,
近代美と世界観,『近代美の研究』所収,1947.06,全2,8,
脱出と回帰,『思想』,1951.08,全2,9,岩波
絵画の不安,『美』(京都市立美術工芸絵画専門学校校友会編集),1930.07,全2,10,岩波
集団美の意義,『大阪朝日新聞』,1930.07,全2,11,
レムブランドの生きた道,『大阪朝日新聞』,1937.05,全2,12,
集団的芸術,『プレスアルト』,1937.09,全2,13,
ヒューマニズムの憂愁,『映画芸術』,1946.12,全2,14,
気質(かたぎ),『美・批評』,1932.01,全2,15,岩波
こつ・気合・呼吸,『大阪朝日新聞』,1933.11,全2,16,
日本の美,『NHK教養大学』宝文館,1952.08,全2,17,
転換期の美学,講義聴講者ノート,,全2,18,
美学概論,講義聴講者ノート,,全2,19,
美学入門, 河出書房刊,1951.07,全3,1,岩波
春のコンティニュイティー,『美・批評』,1931.01,全3,2,
物理的集団的性格,『美・批評』 ,1931.05,全3,3,
コンティニュイティーの論理性,『学生評論』 ,1936.06,全3,4,
映画時評,『世界文化』 ,1936.06、08、12,全3,5,
現代美学の危機と映画理論,『映画文化』 ,1950.05,全3,6,
カットの文法,『シナリオ』 ,1950.07,全3,7,
映画と季感,『シナリオ』 ,1950.09,全3,8,
映画のもつ文法,『読書春秋』 ,1950.09,全3,9,
生きている空間,『シナリオ』 ,1951.01,全3,10,
色彩映画のシナリオ,『シナリオ』 ,1951.04,全3,11,
過剰の意識,『シナリオ』 ,1951.07,全3,12,
大衆の知恵,『シナリオ』 ,1951.09,全3,13,
色彩映画の思い出,『映画の友』 ,1951.09,全3,14,
機械美の構造,『思想』 ,1929.04,全3,15,
文学の構成,『新興芸術』 ,1930,全3,16,
探偵小説の芸術性,『美・批評』 ,1930.05,全3,17,岩波
芸術的空間,『美・批評』 ,1931.04,全3,18,岩波
日本の現代劇とは,『悲劇喜劇』 ,1951.09,全3,19,
壁,『光画』 ,1932.06,全3,20,
うつす,『光画』 ,1932.07,全3,21,
「見ること」の意味,『国民芸術』 ,1937.04,全3,22,
行動の意味,『パレット』 ,1946,全3,23,
行動美術展をみる,『美術手帖』 ,1949.1,全3,24,
一握の大理石の砂,『パレット』 ,1950,全3,25,
一九三〇年,『京都帝国大学新聞』,1930.12.21,全4,1,
現代青年の思想について,講演草稿,1935,全4,2,
蓄音機の針,『京都日出新聞』,1933.06.05,全4,3,
真理を求めて,『中国新聞』,1951.08,全4,4,
三木・戸坂両君を憶う,『夕刊京都』,1946.10.06,全4,5,
『土曜日』巻頭言,『土曜日』,1936.07.04~1937.10.05,全4,6,
雪,『美しい婦人の友』,1952.03,全4,7,
われらが信念,『昭徳』,1942.04,全4,8,
橋頭堡,『京都新聞』,1944.09.08~1945.02.15,全4,9,
組織への再編成,『京都大学新聞』,1950.09.25,全4,10,
知識と政治との遊離,『改造』,1948.12,全4,11,
文化のたたかい,『社会教育』,1951.10,全4,12,
農村の思想,『国民講座』,1951.10,全4,13,
農閑期の文化運動,『光』,1948.01,全4,14,
地方の青年についての報告,『青年文化』,1947.11,全4,15,
地方文化運動報告,『青年文化』,1947.01,全4,16,
地方文化の問題,『季刊大学』,1948.08,全4,17,
聴衆0の講演会,『朝日評論』,1950.04,全4,18,
実践について,『青年文化』,1948.09,全4,19,
図書館に生きる道,『図書館雑誌』,1949.05,全4,20,岩波
国立国会図書館について,『東京新聞』,1948.07.24,全4,21,
国立国会図書館の任務,『評論』,1948.11,全4,22,
国会図書館のこのごろ,『朝日評論』,1950.11,全4,23,
焚書時代」の出現,『社会新聞』,1948.11.10,全4,24,
「良書普及運動」に寄せて,『図書館雑誌』,1950.09,全4,25,
民族の血管,『出版ニュース』,1950.01,全4,26,
読書週間に寄せて,『学校図書館』,1951.10,全4,27,
出版界に大龍巻を,『ファイナンス・ダイジェスト』,1951.09,全4,28,
図書館法と出版界,『図書』,1951.10,全4,29,
焚書時代」を脱却,『朝日新聞』,1952.01.01,全4,30,
図書館法ついに通過せり,『図書館雑誌』,1950.04,全4,31,
図書館法の成立,『社会教育』,1950.05,全4,32,
図書館法楽屋話,『法律のひろば』,1950.07,全4,33,
図書館法を地方の万人の手に,『出版ニュース』,1950.05,全4,34,
公民館と書ダナ,『朝日新聞』,1951.12.24,全4,35,
二十世紀の頂における図書館の意味,『読書』,1950.02,全4,36,岩波
巨像を彫るもの,『土』,1951.04,全4,37,
機構への挑戦,『東京大学新聞』,1949.06,全4,38,
移りゆく図書の概念,『図書』,1950.02,全4,39,
歴史の流れの中の図書館,『読書春秋』,1951.05,全4,40,
集団文化と読書,『読書人』,1951.07,全4,41,
図書館の未来像,『図書館年鑑』,1951.10,全4,42,岩波
大会を終りて,『図書館雑誌』,1950.06,全4,43,
図書館協会六十周年に寄せて,『出版ニュース』,1951.10,全4,44,
支部図書館三周年に寄せて,『びぶろす』,1951.11,全4,45,
組織としての図書館へ,『びぶろす』,1950.02,全4,46,
アメリカ教育使節団の報告書を読みて,『図書館雑誌』,1950.12,全4,47,
国会図書館の窓から,『ブックス』,1949.03,全4,48,
図書館,宮原誠一編『社会教育』,1950,全4,49,
調査機関,『思想』,1952.04,全4,50,岩波
気(け、き)の日本語としての変遷 ,,1947,ー,ー,岩波
図書館の意味,,1950,ー,ー,岩波

(おわり)

【中井正一を読む】06. 久野収編『中井正一全集4 文化と集団の論理』(美術出版社 1981)否定を媒介としての超脱、身心脱落ののちにあらわれる美しい安心の世界

雑誌の巻頭言や新聞のコラムを多く集めた全集第4巻は、岩波文庫の『中井正一評論集』を編集した詩人の長田弘の作品といわれても疑わずに受け入れてしまえるような詩的な文章が多く収められている。

真実は誤りの中にのみ輝きずるもので、頭の中に夢のごとく描かるるものでないことを、この一年が私たちに明瞭に示した。
否定を媒介として、その過程において自分みずからを対象とすること、それがあるべき最後の真実であることを学んだ。
真実のほか、つくものがないこと、そのことが率直にわかること、それがほんとうの安心である。
それは草が持っている安心である。
それは木の葉がもっている安心である。
私たちの社会は、今一葉の木の葉の辿る秩序よりも恥ずかしい。自分たちの弱さも、また、そうだ。
木の葉のすなおさほど強くない。
真実へのすなおな張りなくして、この木の葉にまともに人々は面しうるか。
(『土曜日』巻頭言 「誤りをふみしめて『土曜日』は一年を歩んできた」1937.07.05 p49-50 )

全集を通読して得た美学者中井正一の印象は、弁証法を巧みに操るオプティミスティックなヘーゲリアンであり、つねに美しさを意識しつつ文章を書き仕事をしたすがすがしい人物というものであった。

 

【付箋箇所】
28, 44, 49, 53, 76, 83, 87, 128, 189, 242, 268, 322

収録作品データ:
一九三〇年,『京都帝国大学新聞』,1930.12.21
現代青年の思想について,講演草稿,1935
蓄音機の針,『京都日出新聞』,1933.06.05
真理を求めて,『中国新聞』,1951.08
三木・戸坂両君を憶う,『夕刊京都』,1946.10.06
『土曜日』巻頭言,『土曜日』,1936.07.04~1937.10.05
雪,『美しい婦人の友』,1952.03
われらが信念,『昭徳』,1942.04
橋頭堡,『京都新聞』,1944.09.08~1945.02.15
組織への再編成,『京都大学新聞』,1950.09.25
知識と政治との遊離,『改造』,1948.12
文化のたたかい,『社会教育』,1951.10
農村の思想,『国民講座』,1951.10
農閑期の文化運動,『光』,1948.01
地方の青年についての報告,『青年文化』,1947.11
地方文化運動報告,『青年文化』,1947.01
地方文化の問題,『季刊大学』,1948.08
聴衆0の講演会,『朝日評論』,1950.04
実践について,『青年文化』,1948.09
図書館に生きる道,『図書館雑誌』,1949.05
国立国会図書館について,『東京新聞』,1948.07.24
国立国会図書館の任務,『評論』,1948.11
国会図書館のこのごろ,『朝日評論』,1950.11
焚書時代」の出現,『社会新聞』,1948.11.10
「良書普及運動」に寄せて,『図書館雑誌』,1950.09
民族の血管,『出版ニュース』,1950.01
読書週間に寄せて,『学校図書館』,1951.10
出版界に大龍巻を,『ファイナンス・ダイジェスト』,1951.09
図書館法と出版界,『図書』,1951.10
焚書時代」を脱却,『朝日新聞』,1952.01.01
図書館法ついに通過せり,『図書館雑誌』,1950.04
図書館法の成立,『社会教育』,1950.05
図書館法楽屋話,『法律のひろば』,1950.07
図書館法を地方の万人の手に,『出版ニュース』,1950.05
公民館と書ダナ,『朝日新聞』,1951.12.24
二十世紀の頂における図書館の意味,『読書』,1950.02
巨像を彫るもの,『土』,1951.04
機構への挑戦,『東京大学新聞』,1949.06
移りゆく図書の概念,『図書』,1950.02
歴史の流れの中の図書館,『読書春秋』,1951.05
集団文化と読書,『読書人』,1951.07
図書館の未来像,『図書館年鑑』,1951.10
大会を終りて,『図書館雑誌』,1950.06
図書館協会六十周年に寄せて,『出版ニュース』,1951.10
支部図書館三周年に寄せて,『びぶろす』,1951.11
組織としての図書館へ,『びぶろす』,1950.02
アメリカ教育使節団の報告書を読みて,『図書館雑誌』,1950.12
国会図書館の窓から,『ブックス』,1949.03
図書館,宮原誠一編『社会教育』,1950
調査機関,『思想』,1952.04


中井正一
1900 - 1952
久野収
1910 - 1999

 

ジャン・ピエ-ル・シャンジュー、ポ-ル・リク-ル『脳と心』(原著『自然・本性と規則―われわれをして思考させるもの』1998 訳書 2008 みすず書房)脳科学と観測テクノロジーの進歩と哲学

心身問題をめぐる哲学者と神経生物学者の連続対談。『ニューロン人間』の著者ジャン・ピエ-ル・シャンジューが脳科学の知見をベースに意識現象とニューロンの関連を語るのに対して、フッサールイデーン』のフランス語訳者で『生きた隠喩』『時間と物語』のポ-ル・リク-ルが、「私」というのは「脳」ではないと、物理化学的事象と精神や意識現象との結びつきに関わる考えの行きすぎをいさめるという内容の対談。脳は心の必要条件であっても十分条件とはいえない、あるいは、物質的なものは意識現象の必要条件であっても十分条件とはいえないということをリクールが主張したびたび釘を刺してくるなかで、脳科学の一つ一つの成果をジャン・ピエ-ル・シャンジューが紹介してくれている本と私は解釈した。
どちらも有益なことを言ってくれているし、どちらも飛躍したことを言っているように思われる部分もある。勝ち負けをいうのも益ないことなので、両者が共に賛同しているカンギレムの生物学的哲学あたりが歩むべき方向性を示しているのだろうと考えることにする。

カンギレムは、「生物の固有性、それは自己のためにその環境を作ること、自己のためにその環境を作り上げることである」と強調しています。これは、環境に対する生物の行動において予期が果たしている役割について私たちが論じた事柄と一致します。ここで、この指摘を、生物学的自己の構成が有する長所に付け加えなければなりません。カンギレムは、この点についてさらにこう書いています。人間の環境世界(Unmwelt)が「人間主体によって調整され、秩序立てられて」いるように、動物の環境世界も「生物の本質たる生命価値の主体との関連で調整された環境以外の何物でもない」。「われわれは、動物の環境世界のこのような組織化の根源には、人間の環境世界の根源にあるとわれわれがみなさなければならない主観性に類似した主観性があると考えなければならない」。さらに「したがって生物学は、まず生物を意味する対象として、そして個体性をたんなる対象としてだけではなく、諸価値の序列内のある特性とみなされなければならない。生きることは光を放つことであり、環境を諸々の参照の中心を起点として組織することである。この中心は、それ自身が参照されるなら、そのもともとの意味を失ってしまうような中心である」。
(第5章 道徳の根源へ 3「生物学的歴史から文化の歴史へ——個人の重視」のなかのリクールのことば p239)

環境世界をつくるという意味では、脳科学の進歩による新しい治療法の確立、新薬の開発ということで、科学のほうが私たちの生活にダイレクトに影響してくるかもしれないが、AIの進化とともに責任や正義をめぐる哲学的議論が盛んになったように、脳科学の進歩とともに哲学の議論もより活発になるだろう。なるべく科学と技術と哲学をまんべんなくフォローできるようにしておくのがいいだろう。


【付箋箇所】
44, 58, 60, 62, 76, 79, 87, 103, 112, 144, 147, 194, 202, 207, 239, 258,272,291, 323, 328, 332, 340, 352, 362

www.msz.co.jp

目次:

序奏

第1章 必然的な出会い
 1 知識と知恵
 2 脳の認識と自己の認識
 3 生物学的なものと規範的なもの

第2章 身体と精神——共通の言説を求めて
 1 曖昧なデカルト
 2 神経諸科学の寄与
 3 第三の型の言説へ向けて?

第3章 体験の試練にかけられるニューロン・モデル
 1 単純なものと複雑なもの——方法の問題
 2 人間の大脳——複雑性、階層性、自発性
 3 心的対象 幻影もしくは連結符
 4 認識のニューロン的理論は可能か
 5 よりよく了解するためにもっと説明する

第4章 自己意識と他者意識
 1 意識空間
 2 記憶の問題
 3 自己理解と他者理解
 4 精神か、それとも物質か

第5章 道徳の根源へ
 1 ダーウィン的進化と道徳的諸規範
 2 道徳性の最初の諸構造
 3 生物学的歴史から文化の歴史へ——個人の重視

第6章 欲望と規範
 1 自然の傾向から倫理の装置へ
 2 私たちの行動規則の生物学的基盤
 3 規範への移行

第7章 普遍的倫理と諸文化の争い
 1 倫理の自然的根拠に関する議論
 2 宗教と暴力
 3 寛容の方途
 4 悪のスキャンダル
 5 審議の倫理に向けて——倫理委員会の実例
 6 調停者たる芸術

フーガ

ジャン・ピエ-ル・シャンジュー
1936 -
ポ-ル・リク-ル
1913 - 2005
合田正人
1957-
三浦直希
1970 -

www.h-up.com

目次:
初版前書き
第二版前書き
序説 思考と主体

1 方法 
 動物生物学における実験

2 歴史
 細胞理論

3 哲学
 1生気論の様相
 2機械と有機
 3生体とその環境
 4正常なものと病理的なもの
 5奇形と怪物的なもの

付録
1繊維理論から細胞理論への移行に関する覚書
2細胞理論とライプニッツ哲学の関係に関する覚書
31665年、パリでテヴノ氏家の集会列席者にステノによてなされた『大脳解剖学に関する講演』からの抜粋


ジョルジュ・カンギレム
1904 - 1995

 

ジグムント・バウマン『グローバリゼーション 人間への影響』(原書 1998, 訳書 2010 法政大学出版局)時間/空間が圧縮された時代における時間/空間の消費の格差

原書が出たのが1998年、OSといえばWindows95,98でアナログ回線のダイヤルアップ接続が標準だった頃。訳書が出たのが2010年、OSといえばWindows XPVista光回線無線LANが広がっていった時代、まだWifi使えるのが普通ではなかった時代。現在2021年、Wifiは5Gに、パソコンではなくスマホタブレットが一人一台以上が当たり前の世界。物理配線には縛られなくなったけれども、いつでも接続可能であることをなかば要求される世界となった。


また、通信環境の高度化により情報発信の経路も複雑化、世俗化され、渾沌となっている。


資本主義経済下の消費社会も情報交換の広域化、多様化によってグローカルなブランド化が進展、これといって特徴のないローカル企業、地域の商店は一掃されてしまっていっている。


グローバリゼーションが進展しているなかでの日々。


いいこととわるいこと両面あるけれど、もとには戻れないし戻りたくもない。


単純に1890年代の樋口一葉が描く庶民の世界にもどりたいなんて普通は思わない。『コンビニ人間』の村田沙耶香がタイムスリップして1890年代小説を書くよりも、『たけくらべ』の樋口一葉がタイムスリップして2020年代小説書いてくれた方がよっぽどいい。スマホをもった樋口一葉。どこかしら無敵感もある。


ジグムント・バウマン『グローバリゼーション 人間への影響』は、特殊な才能もなく、幻想としての無敵感ももてない一般庶民層へ、全世界的な状況確認を行うようにうながす書だと考えられる。無限空間のなかでぞんざいに扱われることを宿命として待っているような弱小消費者としてあることが、君たち一般層の現在の基本的なポジションであるんだよとバウマンは指摘する。回避策を示してくれはしない。まずは状況確認が必要なことだけは確かだろうと、とりあえず見るべきものとそれが持つ方向性を提示してくれている。


原書刊行から20年、少しも発言が古びていないことが嫌でもあり、怖ろしくもある。


忘れやすさとコミュニケーションの(高速性のみならず)費用の安さは、同じ状況の二つの側面にすぎず、分けて考えることなどできない。安価なコミュニケーションは、ニュースが迅速に届くことを意味すると同時に、獲得した情報をすぐに氾濫させ、窒息させ、或は放逐することを意味する。「ウェットウェア」(引用者注:人間の頭脳)の労力が、少なくとも旧石器時代から大きく変わっていないため、安価なコミュニケーションは記憶を満たして安定させるどころか、記憶に殺到して覆いつくす。
(第1章 時間と階級 「移動の自由と社会の自己構成」 p22-23 )

「時間/空間」を資産によって操作できる層と操作できない層が存在するし、コミュニケーションのコストと方向性を操作できる層と操作できない層に分割されもする。それでもある程度、入力と出力に関する選別の自由は立場の差をこえて共通に存在する。確たる資産がないのなら、とりあえずは共通に存在するであろう部分に賭けて、リターンの具合をチェックし、フィードバックしていくほかはないだろう。


そんな読後感を残した一冊。

 

www.h-up.com

目次:

第1章 時間と階級
 第二の不在地主
 移動の自由と社会の自己構成
 新しい速度、新しい分極化
 
第2章 空間の戦争―経過報告(キャリア・レポート)
 地図をめぐる戦い
 空間の地図化から地図の空間化へ
 集会恐怖症(アゴラフォビア)と地域の復興(ルネサンス
 パノプティコン後の生活はあるのか?
 
第3章 国民国家の後に―なにが?
 普遍化しているのか―それともグローバル化されているのか?
 新しい収用―こんどは、国家から
 可動性のグローバルなヒエラルヒー
 
第4章 旅行者と放浪者
 消費社会で消費者であること
 移動する私たちの分断
 世界を動くこと 対 世界が動くこと
 健やかなるときも病めるときも―つねに共に
 
第5章 グローバルな法、ローカルな秩序
 不可動性の工場
 ポスト矯正時代の刑務所 
 安全性―わかりにくい目的のためのわかりやすい手段
 秩序の外側
 

ジグムント・バウマン
1925 - 2017
澤田眞治
1964 -
中井愛子


【中井正一を読む】05. 久野収編『中井正一全集3 現代芸術の空間』(美術出版社 1981)酷さをつくりだしたのは人間、素晴らしさをつくりだせたのも人間

何ものかがあると自覚し驚いた人間という器に注がれ溢れるものの運動と、それを共振しながら受けとめている人間の時間と空間の有りように、あらためて眼を向けさせてくれる中井正一の美をめぐっての思想。

宇宙の中に、宇宙をうつす新しい宇宙を、人類だけが創りだしたのである。
素晴らしい創造であり、それが三十万年の歴史の本当の勝利のしるしである。
それだけで、人間はすばらしい存在なのである。
三千年の歴史の中の時々起こってくる愚劣きわみない行為に対して人々は時々、我慢づよくなければならない。
そのほかにかき抱くべき人類はないのだと、自分によくいいきかせて、そして、その一人一人が、三十万年の歴史の勝利のしるしを、一人一人残りっこなしに、豊かにそしてひそかにもっているのだということをも、よく、さらに自分にいい聞かせなくてはならない。

(一握の大理石の砂,『パレット』 , 1950 p321)

他の物、他の種があるなかでの人間の世界。さまざまな厳しさや貧しさが押し寄せてきてはいても、すべてをみじめさに結びつけるようであってはいけない。

 

【付箋箇所】
202, 210, 251, 261, 268, 313, 321
岩波文庫掲載論文部分は除く

 

収録作品データ:
 美学入門, 河出書房刊, 1951.07
 春のコンティニュイティー,『美・批評』,1931.01
 物理的集団的性格,『美・批評』 , 1931.05
 コンティニュイティーの論理性,『学生評論』 , 1936.06
 映画時評,『世界文化』 , 1936.06,08,12
 現代美学の危機と映画理論,『映画文化』 ,1950.05
 カットの文法,『シナリオ』 , 1950.07
 映画と季感,『シナリオ』 , 1950.09
 映画のもつ文法,『読書春秋』 , 1950.09
 生きている空間,『シナリオ』 , 1951.01
 色彩映画のシナリオ,『シナリオ』 , 1951.04
 過剰の意識,『シナリオ』 , 1951.07
 大衆の知恵,『シナリオ』 , 1951.09
 色彩映画の思い出,『映画の友』 ,1951.09
 機械美の構造,『思想』 , 1929.04
 文学の構成,『新興芸術』 , 1930
 探偵小説の芸術性,『美・批評』 , 1930.05
 芸術的空間,『美・批評』 , 1931.04
 日本の現代劇とは,『悲劇喜劇』 , 1951.09
 壁,『光画』 , 1932.06
 うつす,『光画』 , 1932.07
 「見ること」の意味,『国民芸術』 , 1937.04
 行動の意味,『パレット』 , 1946
 行動美術展をみる,『美術手帖』 , 1949.10
 一握の大理石の砂,『パレット』 , 1950
 
中井正一
1900 - 1952
久野収
1910 - 1999