読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

対談

マルティン・ハイデッガー『形而上学入門 付・シュピーゲル対談』(原著 1953, 訳:川原栄峰 平凡社ライブラリー 1994)

1953年にフライブルク大学で行われた講義のテクスト。四年ぶりに平凡社ライブラリー版で再読。死後公開されたシュピーゲル対談も併せて読むことでハイデガーが恐れていたものがいかなるものであったのかがすこし明瞭に見えてきた。 すべてが機能している…

ジャック・デリダ+ベルナール・スティグレール『テレビのエコーグラフィー デリダ〈哲学〉を語る』(原著 1996, 訳:原宏之 2005 NTT出版 2005)

19世紀後半以降に登場したオーディオヴィジュアルの記録再生と配信の技術とそれがもたらした精神の変容を精神分析的アプローチから解き明かし、多様性と自由度の高い未来へ向けて解き放つことが二人の哲学者の共通の狙い。 本書はデリダとスティグレールの…

ベルナール・スティグレール『偶有からの哲学(アクシデントからの哲学) 技術と記憶と意識の話』(原著 2004, 訳:浅井幸生 新評論 2009)

ハイパー・インダストリアル社会における意識の荒廃に向きあう哲学者スティグレールへのラジオインタビューの書籍化。消費者として細分化され分類可能な対象として個体としての生の唯一性を剥奪された状態で生きる現代人の生きづらい状況を浮き上がらせるべ…

デイヴィッド・シルヴェスター『フランシス・ベイコン・インタヴュー』(原著, 訳:小林等 ちくま学芸文庫 2018)

ジャコメッティのモデルをつとめ作家論を書いたことでも知られるイギリスの美術評論家・キュレーターであるデイヴィッド・シルヴェスターによるフランシス・ベイコンへの20年を超えるインタヴュー集成の書。訳者あとがきからも著者まえがきからも分かるこ…

サルトル×レヴィ『いまこそ、希望を』(原著 1980, 1991 訳:海老坂武 光文社古典新訳文庫 2019)

希望が見いだせたらいいなぁと思って手に取った著作。 サルトル最晩年の言葉。 対談相手のベニ・レヴィは毛派のプロレタリア左派指導者で、1973年に68歳で盲目となったサルトルの秘書として1974年から思考の相手をつとめた人物。 本対談はレヴィ主…

アルベルト・ジャコメッティ『エクリ』(原著 1990, 訳:矢内原伊作+宇佐見英治+吉田加南子 みすず書房 1994, 2017)

ジャコメッティ存命中に発表されたすべての文章を収めた書物。 ジャコメッティ愛好家必読の書物ではあるが、芸術家本人が書いたテクストだからといって絵画や彫刻と同じレベルの表現とはとらえないほうが無難。あくまで芸術家本人が綴ったところの参考資料と…

石田英敬+東浩紀『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン 2019)

世界規模のネットワークに常時接続されている世界を生きる現在の人間の在りようを現代記号論の立場から分析しより良き未来に繋げることを意図してなされた総計13時間を超える講義対談録。 基本的に東大教養学部時代の師弟コンビの再編となる高級コミュニケ…

矢内原伊作+宇佐見英治『対談 ジャコメッティについて』(用美社 1983)

日本で最初期にジャコメッティに注目し、それぞれ渡仏しジャコメッティ自身と深い交流を持ったふたりの文学者による対談。1980年に日本で開催された「ジャコメッティ版画展」の最終日におこなわれた公開対談をベースに、出版を念頭において改めておこな…

コンラート・ローレンツ『文明化した人間の八つの大罪』(原著 1973, 日高敏隆+大羽更明訳 思索社 1973)

私が生まれた1971年の世界の人口は37憶、今年2023年は80憶を超えているという。50年で倍増、40億人増加している。西暦1000年時点では2億人くらいだそうだから、世界の様相が変わっていかないほうがおかしい。人口過剰と言われつつ世界…

馬場あき子+松田修『『方丈記』を読む』(講談社学術文庫 1987, エッソ・スタンダード株式会社広報部 1979)

鴨長明が残した散文作品と和歌と同時代の「家長日記」などを語りながら、鴨長明の人間像についてざっくばらんに語り合った対談録。長明の非徹底的な側面を比較的冷たくあしらうように語る日本文学者松田修と、不完全で弱さに徹底してまみれた長明を文学者の…

原田マハ+ヤマザキマリ『妄想美術館』(SB新書 2022)

美術を愛する作家二人によるアート談義。両人ともにエピソードが常人離れしているので、短いパッセージのなかに情報と情動が凝縮されていて、読み手は凝視せざるをえない。さらに、編集部の優れた仕事振りが伺える注記と図版による補完体制が質量ともに充実…

千葉雅也+二村ヒトシ+柴田英里『欲望会議 性とポリコレの哲学』(角川ソフィア文庫 2021)

ゲイであることをカミングアウトしている気鋭の哲学者千葉雅也と、能動的な男優以外の演者を中心に据える斬新な演出を繰り出すAV監督二村ヒトシと、戦闘的フェミニストでSNS上で炎上上等の言論活動を繰り広げてもいる彫刻を中心に活動する現代美術家柴…

國分功一郎+千葉雅也『言語が消滅する前に 「人間らしさ」をいかに取り戻すか?』(幻冬舎新書 2021)

2017年から2021年までのあいだに40代の哲学者同士が行った5回の対談が収められた一冊。この間に、國分功一郎は『中動態の世界』を出版し、千葉雅也は『勉強の哲学』を出版し、それぞれかなり注目されていたことが思い出される。 本書の冒頭2回の…

松岡正剛『間と世界劇場 主と客の構造2』(春秋社 1988)

昭和63年(1988)は今から34年前、編集者松岡正剛30代後半から40代前半に行った対談10篇を集めた一冊。錚々たる対談相手にすこしも引けを取らない松岡正剛の博覧強記ぶりに舌を巻く。それぞれの専門分野以外についても視界が広く且つ深い人たちの放…

ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ『神話の力』(原著 1988, 早川書房 飛田茂雄訳 1992)

『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスが大きな影響を受けたアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルに、ホワイトハウス報道官も務めたことのある先鋭博学のジャーナリストビル・モイヤーズが問いかける、知的興奮に満ちた対談集。生の冷酷な前提条件…

松岡正剛+ドミニク・チェン『謎床 思考が発酵する編集術』(晶文社 2017)

謎床、なぞどこ。 謎を生み出すための苗床や寝床のような安らいつつ生気を育む場という意味でつけられたタイトル。 ぬか床で漬物をつけているという情報工学が専門のドミニク・チェンが、正解を導くために必要とされるある謎を生む必要があり、謎を触発した…

シリーズ・戦後思想のエッセンス『戦後思想の到達点  柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る』(NHK出版 2019 柄谷行人 、見田宗介、大澤真幸)抑圧の回帰と自由への飛翔

学恩に応えなければいけないという一世代下の大澤真幸の真っ正直な気持ちが見事に実を結んだ傑作対談集。 日本の知の世界を切り開いてきた先鋭二人の、それぞれ老い朽ちることのない孤高の歩みの根源にまで分け入ろうとする、準備の整った大澤真幸の態勢がす…

ジャン・ピエ-ル・シャンジュー、ポ-ル・リク-ル『脳と心』(原著『自然・本性と規則―われわれをして思考させるもの』1998 訳書 2008 みすず書房)脳科学と観測テクノロジーの進歩と哲学

心身問題をめぐる哲学者と神経生物学者の連続対談。『ニューロン人間』の著者ジャン・ピエ-ル・シャンジューが脳科学の知見をベースに意識現象とニューロンの関連を語るのに対して、フッサール『イデーン』のフランス語訳者で『生きた隠喩』『時間と物語』…

『間の本 イメージの午後 対談:レオ・レオーニ&松岡正剛』(工作舎 1980)「未知の記憶」と「宇宙的礼節」を呼び寄せる輝かしい対談の記録

The Book of MA 『平行植物』の日本語版刊行を機縁に、発行元の工作舎の編集長である若き松岡正剛(当時36歳)とレオ・レオーニ(当時70歳)の間で執り行われた鮮烈な対談の記録。松岡正剛がレオ・レオーニから貴重な言葉を引き出そうと全力でもてなし、…

若松英輔+山本芳久『キリスト教講義』(文藝春秋 2018) キリスト教受容の歴史は内輪でもっと練ってから提供してほしいかな

お知り合い、内輪モードのぬるさはありつつ、現代日本のカトリック言説の最上層の御意見をいただく。 言葉の本来的な意味を考察しながらの教えは傾聴に値する。 【罪】 ギリシア語で罪はアハマルティアというのですが、これは元々は「的外れ」、という意味な…

マルティン・ハイデッガー『ことばについての対話』(原書1959, 理想社ハイデッガー選集21 手塚富雄訳 1968)

日本のドイツ文学者手塚富雄との対話を機縁にハイデッガーによって創作変奏された対話篇。手塚富雄の俤の濃い「日本の人」と「問う人」ハイデッガーの会話という形で、ことばについての実践的考察が展開される。ハイデッガーの教え子でもあった九鬼周造の「…

須藤康介+古市憲寿+本田由紀『文系でもわかる統計分析』(朝日出版社 旧版 2012, 新版 2018)

数学が苦手な社会学者古市憲寿が狂言回しとなって、統計分析の初歩をレクチャーしてもらう対談形式の一冊。用語に馴染むというところからはじめてくれているので、敷居がとても低く初心者に優しい。IBMのSPSSを実際に操作しながら統計分析の手法を学んでいく…

池上彰+佐藤優『宗教の現在地 資本主義、暴力、生命、国家』(角川新書 2020)

池上彰に情報量でも読解力でも発想力でもまさっている佐藤優という存在はやはりすごい。本書は宗教という専門分野ということもあってより迫力がある。語られている内容はいつもの池上彰と佐藤優なのだが、漆の重ね塗りの仕上げの塗りに出会っているような印…

湯川秀樹・梅棹忠夫『人間にとって科学とはなにか』

京風アレンジのきいた味わい深い科学系文化雑談。ふたりともにペシミスティック、且つ老荘思想を愛好する科学者で、その居心地の悪そうなポジションからの発言が、五〇年後の今でも強い浸透力を保っている。 普通の性能の自動車をつくることにくらべると、安…

アンドレ・ルロワ=グーラン『世界の根源 先史絵画・神話・記号』(1982)

アンドレ・ルロワ=グーランは先史学者・社会文化人類学者。先史芸術の研究で有名。代表作『身ぶりと言葉』は、千夜千冊の松岡正剛が絶賛している。本書は美術史家クロード・アンリ・ロケとの全十二章からなる対話。400ページを超えてはいるものの、アンド…

片山杜秀・佐藤優『平成史』(2018)

片山杜秀が佐藤優と四つに組んで戦わせた対談の記録。今後を生き抜くための処方箋を見出すための平成30年間の読み解き。結論部分で処方箋として出てきたのは教育の立て直しということで、おもに未来を担う人々に向けての環境整備をしていかなくてはならな…

井筒俊彦『コスモスとアンチコスモス 東洋哲学のために』(1989, 2019)

柄谷行人も似たようなことを最近の著作のどこかで言っていたような記憶があるが、世界共通言語としての「メタ・ランゲージ」が必要だという発言が一番大きなテーマとして響いた。 メタ・ランゲージというものがどうしてもできなくては、さきほどの国際社会の…

『香山リカと哲学者たち 明るい哲学の練習 最後に支えてくれるものへ』(2017)

精神科医の香山リカと三人の日本人哲学者との対談三本。入不二基義、永井均、中島義道というラインナップ。聞き役の香山リカの切り込み方が浅く一本調子なこともあって、対談の成果を探すのがわりと難しい。香山リカとしてはいまの世の中の反知性主義に対し…

清水亮『よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ』(2016)

対談メインの2016年当時最先端の人工知能関連情報。なかには出版後に詐欺罪で逮捕されたひとも含まれるが、それも含めて興味深く読み進めることができる。ほかには図版とNOTE(用語解説)が優れている。パワポ資料を作りなれているASCII編集者の面目躍如とい…

『宗教と生命』激動する世界と宗教(第三回 2018.09)

連続シンポジウム「激動する世界と宗教 私たちの現在地」の第三回講演録。パネラーは池上彰、佐藤優、松岡正剛、安藤泰至、山川宏。 第Ⅰ部の対論の「有用性の論理」についての議論が印象に残る。 遺伝子組み換えの大豆や小麦には抵抗感があるのに、山中先生…